日本ハムの新二刀流・矢澤宏太が探す“生きる道” 常識を疑え…大谷翔平は「参考外」

日本ハム・矢澤宏太【写真:羽鳥慶太】
日本ハム・矢澤宏太【写真:羽鳥慶太】

日本ハムのドラ1・矢澤に立ちはだかった問題「体力がカツカツに」

 プロ野球のシーズンは残り2か月ほど。特に若い選手にとっては、成績とは別に今季の成長が問われる時期だ。日本ハムにドラフト1位で入団した矢澤宏太投手は、日体大で本格的な投打二刀流に取り組み、プロ入り後もそのスタイルを継続している。ただ6月にプレー中の負傷で登録抹消され、1軍から姿を消した。2軍で投打とも実戦復帰を果たした矢澤に、現時点での二刀流の「課題と完成度」を聞いた。(記録は6日現在)

 矢澤は8月6日に鎌ケ谷で行われた2軍西武戦に先発し、1回を無失点に抑えた。左腕から140キロ台半ばの速球をコントロール良く決め「今日は力を入れずに、タイミングで投げることがテーマでした。今の力の入れ具合は7~8割。今後どんどん上げていけたら」と笑顔で投手としての復帰戦を振り返った。「大学では9回投げるのが当たり前でしたから、1イニングで出し切るというのがなかなか難しい。アナリストとは、もう少しいいボールを投げられると話しています」。最大の出力を狙った時に出すための方法を、模索している。

 6月3日の1軍巨人戦でヘッドスライディングした際に、左手の小指と右膝の靭帯を痛め登録抹消。その後野手としては一足先に実戦復帰を果たしていたが、投手としてマウンドに上がるのは6月2日の1軍巨人戦でリリーフして以来、約2か月ぶりだった。ここまで1軍で残した成績は野手として打率.184、1本塁打。投手としては2試合にリリーフして計2回を無失点。プロ野球で「投打二刀流」を実現させる難しさを、どう感じているのだろうか。

「練習量が全然違いましたね。投手も野手も、全ての練習をこなそうとすると、それだけで体力がカツカツになってしまうんです。試合の分の体力がなくなってしまう」

日本ハム・矢澤宏太【写真:羽鳥慶太】
日本ハム・矢澤宏太【写真:羽鳥慶太】

打撃練習をせずに臨んだ試合で2本塁打「いい感じで試合に入れた」

 8月8日から1軍昇格を果たしたものの、2軍では投手としてプレーする日と、野手としてプレーする日をきっちり分けて調整していた。これは大谷翔平投手(エンゼルス)が日本ハムでプレーしていた時期もそうだった。先発登板する日とその前後は、野手としての試合出場はせず、練習日のような扱いだった。名実ともにフル出場を続ける現在との大きな違いだ。

 矢澤にとっての2軍生活は、自身の力を上げると同時に、二刀流を実現するための道を見つけるための時間にもなっている。3日のヤクルト戦で2打席連続本塁打を含む3安打。この試合の前の練習に大きなヒントがあった。試合前、グラウンドでの打撃練習には加わらず、開始30分前に軽くスイングをしただけで臨んだのだという。

「いい感じで試合に入れた感じがあったんです。集中力も高くて」

 二刀流を実現するためには、常識を疑ってかかることが必要になる。体力をいかにして温存するのかが重要で「今のメニューが当たり前ではなく、より良いルーティンを作っていけたら」と矢澤も口にする。その一例がキャッチボールにあった。

「普通に練習すると、練習開始前とシートノックの前、2回することになりますよね。これを1発で肩を作ってゲームに入れないかと」。練習前のキャッチボールには加わらず、試合前に軽くブルペンでキャッチボールを行うなど、「矢澤流」の二刀流を確立しようと試行錯誤の毎日だ。

大谷翔平との違いもたくさん「新しいものを作らないといけない」

 球団には大谷をに前代未聞の二刀流として育て上げたノウハウもあるが、矢澤は「僕は守備につきますし、先発で投げるわけでもないので、新しいものを作らないといけない」という。木田2軍監督も「大谷とか上原の例は参考にならない」とキッパリ。「大谷は1年目からもっと完成度が高かったし、使われ方も全然別だよね。上原はやっぱり投手がメーン。『矢澤のやり方』を、本人も周りも見つけないと難しいよね」と続ける。

 大谷は1年目の開幕戦、右翼手でスタメン出場を果たしたように、最初から野手としては1軍戦力とみなされていた。一方で投手としてはまだ成長の余地があると見られ、1軍登録をされた状態で2軍戦に投手として出場しにきたこともある。矢澤はまだ投打両方が成長過程。それは本人も認めるところだ。

「この1年で、DHで出るときはこう、スタメンの時はこうすると、出場の形によってルーティンを決められるようにしたい。試していく中で決めていけたら。そういう意味では、怪我をして、ここにきたことにも意味はあると思います」

 ちなみに、打者としての好不調が投手としてのプレーにも影響することは「あまり関係ないですね。気持ち的に乗ってくるとかはありますけど……」。投手と打者、2人の自分を使い切るための術を学んでいる最中。どんな選手になっていくのか、まだ想像もつかない。

○著者プロフィール
羽鳥慶太(はとり・けいた)愛知や埼玉で熱心にプロ野球を見て育つ。立大卒業後、書籍編集者を経て北海道の道新スポーツで記者に。日本ハムファイターズを北海道移転から長年担当したほか、アマ野球やWBCなどの各種国際大会も取材する。平昌冬季五輪の特派員も務めた後、2021年からCreative2で編集者として活動。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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