ミスターの桁外れ生活「朝からメロン」 いまだ忘れぬスイートルームでの“自画自賛”

巨人で活躍した緒方耕一氏【写真:矢口亨】
巨人で活躍した緒方耕一氏【写真:矢口亨】

元巨人で盗塁王の緒方耕一氏 長嶋茂雄氏には驚かされてばかり

 巨人で盗塁王のタイトルを2度も獲得した評論家の緒方耕一氏は、“ミスター”こと長嶋茂雄氏とは1993年から1998年まで監督と選手の間柄。1994年の日本シリーズでは緒方氏が満塁本塁打を放ち、長嶋監督初の日本一に貢献した。直接の師弟関係だった時代以外にも、強烈な印象が残っている場面があるという。2002年、自宅の表札を長嶋氏に書いてもらおうとした時のこと。今も忘れぬ“仰天体験”の連続だった。

 「僕のことを知ってるんだ」。緒方氏は最初に“生”で長嶋氏を見た日の感激を、今も忘れない。

 初めて1軍に昇格したばかりの1989年5月。東京ドームで練習があった日のこと。緒方氏が用件を済ませてイベントルームを出ると、遠くに人だかりができていた。大勢の報道陣が一人の男性を囲みながらいっしょに動いてくる。「えーっ、誰だろう」。

 その人は階段を降りてきてベンチ、グラウンドへと向かう通路をゆっくり歩く。近付いてくると、緒方氏は「あーっ、長嶋さんだ」と気付いた。「テレビで見ていた方だ」。ドキドキが止まらない。

 ここで緒方氏が予想だにしない出来事が起きた。長嶋氏が手を振っているのだ。「誰に振っているんだろうって思って、周りを見渡したら僕しかいないんです」。

 さらに続く。「おーっ、緒方くーん」と名前を呼んだ上に「頑張ってねー。応援してるよー」。独特の甲高い声の響きが聞こえてきた。

 長嶋氏は1980年に第1次政権を終え、解説者として充電中だった。それまで直接の面識がなく、1軍にデビューしてホヤホヤの20歳の若者に対して気さくに声を掛けてくれた。「うわっ、俺、頑張んなきゃ」。激励に奮いたったのは言うまでもない。

巨人で活躍した緒方耕一氏【写真:矢口亨】
巨人で活躍した緒方耕一氏【写真:矢口亨】

「ドアを開けた記憶がない」朝6時の緊張訪問…ミスターの部屋で夢うつつ

 緒方氏は初めて巨人のコーチ(2軍外野守備走塁)に就任した2002年春の宮崎キャンプで、あらためて長嶋氏の“凄さ”に驚かされた。

「うちの表札の文字は、長嶋さんなんですよ」。緒方氏は就任前、子供が大きく成長したこともあってマンションから一軒家に住まいを移そうとしていた。そこで“家の顔”を恩師に書いてもらうことを思い付いた。「高島屋に行って、そこで一番高い和紙を10枚買いました。折れないようキレイに保存しました」。

 解説者に戻った長嶋氏がキャンプ取材に訪れる日程に合わせ、執筆をお願いする旨を関係者を通じて打診し、許可を得た。安どしたものの、指定された時刻は6時。「朝の6時ですよ。早っ」とビックリした。

 2軍宿舎から長嶋氏が滞在するホテルまで車を飛ばし駆け付けた。またまた仰天。「スイートルームですよ。もう凄いんですよ。あのフロア、部屋が一つしかなかったのかな……。ドアあったかな、ドアを開けた記憶がないんですよ。エレベーターを降りても全部つながっていたような気がします」。

 部屋に入れば、テーブルは高級フルーツが占拠。もちろん長嶋氏が大好物のメロンもある。長嶋氏が「緒方、食べろ」と勧めるが「いやいや、朝からメロンですか」と心の中で苦笑いしつつ「いえ、結構です」と2度繰り返した。母校・熊本工時代に3度断るのは失礼と教わった緒方氏は結局、「朝メロン、頂きました。朝メロンですよ」。

鮮やかな筆さばきで“一発回答”「おおーっ、素晴らしい」

「さあ、やろうか」。そんなこんなで、いよいよ執筆本番。長嶋氏は墨と筆を常に持ち運んでいる。緒方氏が持参した高級和紙に鮮やかな筆さばきで「緒方」と記すや、「おおーっ、素晴らしい」と自画自賛するではないか。

 長嶋氏が「どうだ、緒方」と問う。「素晴らしいです」と即答した。まだ1発目なのだが「うーん、じゃあ、これでどうだ」と長嶋氏。和紙は9枚も残っている。それでも「じゃあ、これでお願いします」で終了した。

 緒方氏は楽しそうに回想する。「長嶋さんに『どうだ』って仰られたら『素晴らしいです』と言うしかないじゃないですか。あと9枚あるんで2、3枚書いて『これにしようか』なら、わかるんですけど。でも『いや、もっと書いて下さい』なんて言えないでしょう。1枚です。一発で終わりました」。

 緒方家には、和紙の文字を落とし込んだ表札が掲げられている。そして、玄関の中にも思い出の品が2つ。緒方氏が侍ジャパンのコーチとして大会連覇に貢献した第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の優勝メダル。もう1つは「あの時の和紙と、スイートルームで撮った写真です。和紙を持って立っている長嶋さんといっしょに撮ってもらいました。今でも飾ってあります」。

【実際の写真】「素晴らしい」文字が表札に 長嶋茂雄氏も一発OK、緒方家の宝物

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