巨人と違う“思考”に「そんなんでいいの?」 大物ルーキーと人情味…知見広げた2球団
緒方耕一氏は巨人の他に日本ハムで1軍、ヤクルトで2軍を指導した
巨人で2度盗塁王に輝くなどスピード感あふれるプレーで活躍した評論家の緒方耕一氏は引退後、巨人で7年、日本ハムで2年、ヤクルトで3年コーチを務めた。「ファイターズ、スワローズのユニホームを着ていなかったら、何十年前のジャイアンツの話を今でもしているのかと思うとゾッとします。俺らの時代はこうだった、『だから、こうやれ』では、もう古いですから」。現役時代とは異なる2チームでの思い出を聞いた。
日本ハムでは2018年から2年、1軍を指導した。本拠地が北海道・札幌。1次キャンプは米国のアリゾナからスタートした。「移動だけで大変ですよね。シーズン中の国内を含めると、1年間でマイルが10万弱も貯まりましたよ」。飛行機を利用する機会が多く、移動の距離が他球団に比べて尋常でなく長いことを実感した。
巨人時代は移動日も練習があって当たり前だった。「ファイターズでは1日もないと言われて、ショックを受けました。『えっ、移動日全部休みなの? マジか、そんなんでいいの?』って。でも、さすがに入ったら『できないな』と思いました。ファームも千葉の鎌ケ谷がホームですから1、2軍を入れ替わる選手も大変」。選手の体調維持に心を砕いた。
2018年は7球団がドラフト1位指名で競合した清宮幸太郎内野手のルーキーイヤー。その食事量に驚かされた。「びっくりするぐらい食う。キャンプは普通しんどいから昼飯はみんな軽め。入らないんです。なのに、あいつはカレーとか皿からもれていました(笑)。注目されている中でプレッシャーはないのかな、図太いのかなと、そんな感じで見てました」。
その清宮も今年で高卒6年目。「今までは『まだ若いから』でしたが、これからは『何やっているんだ』という年齢。もう毎年ずっと好成績を残さないといけません」。愛弟子の更なる飛躍を期待する。
野球は生き物、勉強が必要…現役時代の自分に言いたい「コーチって大変だよ」
ヤクルトでは2020年から3年、2軍で教えた。ファームの本拠地は埼玉・戸田。自宅から通うと、往復で3時間半ぐらいかかる。「家を朝6時には出ないといけなくなるので、寮の目の前のマンションを借りました。毎日、歩いて球場に行ってましたね」。
2軍施設はかなり老朽化が進んでいたが、居心地は良かった。「監督、コーチ室はぎゅうぎゅうですけど、あまり広くて持て余すよりは、全て手が届くようでいい。寮も掃除のおばちゃんが毎日キレイにしてくれているので、すごく清潔。人情味があって良かったですね」と振り返る。
コーチを経験して、指導者とプレーヤーの責任の違いを実感した。「1軍の監督、コーチは結果が全て。選手は、チームが負けても3安打したら、まあいいかと思える部分がある。もちろん選手たちが活躍してくれればうれしいですけど。それでも負けたら何も残らない。勝つか負けるかだけでした」。
指導者も日々、研鑚が必要と痛感させられた。「野球は生き物。昔と考え方が違ったりしている。コーチも勉強させてもらっている気持ちがあれば、変なプライドを捨ててやれると思います。選手に『ごめん、こう言ったけど調べてみると、こういう方法もある。ちょっと違うアプローチも試してみない?』という感じですね」。
緒方氏は現役時代を振り返り“反省”する。「『コーチは楽だな』なんて考えていました。実際にコーチを経験してみたら、試合前からデータとかいろんな映像を見たりして。現役の時の僕に言ってあげたいです。『いや、コーチって大変だよ』って」と笑顔を浮かべた。
(西村大輔 / Taisuke Nishimura)