後半戦好調→IL入りに「精神的な動揺」 ヌートバーを支えたもう1つの“世界一”
自打球を当て18日に離脱…復帰は9月2日パイレーツ戦が見込まれている
野球日本代表「侍ジャパン」に日系選手として初めて招集され、3大会ぶり世界一に貢献したカージナルスのラーズ・ヌートバー外野手。8月半ばに自打球を当てる怪我に見舞われたが、復帰に向けての心境を語った。Full-Countでは、MLB公式サイトのカージナルス番ジョン・デントン記者の取材をもとに、等身大のヌートバーを粗挽きする月2回の連載「ペッパー通信」をお届けしている。第7回のテーマは“2つの世界一”について。【取材:ジョン・デントン、構成:木崎英夫】
シーズン後半戦を安定した打撃で突き進んでいたヌートバーが、ワンバウンドした自打球を鼠径部に受け戦列から離脱したのは17日(日本時間18日)のことだった。それから10日間の負傷者リスト(IL)入り。27日(同28日)のフィリーズ戦で出場登録が可能だったが、まだ痛みが残り見合わせた。復帰はマイナーでの実戦を経て、本拠地ブッシュ・スタジアムで行われるパイレーツとのカード初戦となる9月1日(同2日)が見込まれている。
4月はヘッドスライディングで指を、5月は守備でフェンスに激突して腰を痛め、今度は自打球を受けるアクシデントで今季3度目のIL入りとなった。ハッスルプレーでの怪我とは違うだけに気分は割り切れていないという。
「選手はどんな形でもチームの勝利に貢献したいと思うもの。今回は1つのプレーに集中した結果とは無縁のファウルだからね。なんとも言いようのない重苦しさがある。長打を打てる感覚をしっかりつかみつつある状態で見舞われた怪我だったということもあるしね。精神的な動揺がちょっと続いていたのが正直なところ」
7月14日以降の後半戦で、ヌートバーは打率.330、7本塁打、14打点を記録。打撃の総合的な貢献度を表すOPS(出塁率+長打率)は1.027を弾き出すなど、リーグ屈指の打撃内容だった。実は、憂鬱さを連れてきたことにはこんな理由もあった――。
WBC優勝トロフィー公開に「じっくり見ていると顔がほころんでくる」
3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で侍ジャパンの一員として世界一をもぎ取った充実感が体のうちを衝き上げてきた直後の怪我だったということ。
自打球を受けた2日前の14日(同15日)だった。この日はアジアとアフリカにルーツを持つ人々との交流イベント「アジアン&アフリカン、ヘリテージ・ナイト」の一環として、試合前にはWBC優勝トロフィーが約2時間、球場内のテラスでファンにも公開された。ヌートバーは輝くシルバーのトロフィーを手に取りマイアミでの優勝の瞬間を記憶から切り取った。
「トロフィーを手に取って、じっくり見ていると顔はほころんでくるよね。東京ドームから始まってマイアミ・マーリンズの球場までずっと仲間たちと頂点を目指せたことは僕の大きな財産になった。最後、ショウヘイがトラウトから三振を奪ってマウンドに輪を作った、あの感激は一生忘れない」
束の間の感慨に浸り、残りのシーズンを突っ走る意識を高めた矢先のアクシデント。あの夜、試合の途中で退き、市内の病院に緊急の検査に向かう車中でヌートバーが何を思ったかは察するに余りある。
ところが、沈みがちだった気持ちをリセットさせる出来事が起きた――。
当初の復帰予定だった27日(同28日)の日曜日だった。ロサンゼルス郊外の街、エルセグンドで生まれ育ったヌートバーに吉報が届いた。
所属していたリトルリーグチームが世界一「野球には普遍的な感動がある」
米ペンシルベニア州ウィリアムズポートで開催されていたリトルリーグの世界大会で、少年時代に所属していたカリフォルニア州代表のエルセグンド・リトルリーグが見事優勝を飾ったのである。気持ちはまたたく間に柔軟になった。
日本のファンにもお馴染みの笑顔で、ヌートバーは言葉の速度を上げた。
「僕らはカリフォルニア州の代表にはなれず、リトルリーグの聖地には行けなかった。すごく悔しかった。でも、あの12歳の夏がこうして僕のメジャーリーグの道に通じていたんだよね。野球には普遍的な感動というのがあるんだなって、つくづくそう思う。WBCの優勝もリトルリーグでの優勝もそれなんだよね、きっと。後輩たちの偉業に感謝の気持ちでいっぱい」
奇しくも、リトルリーグ世界大会はヌートバーが怪我をした16日(同17日)から始まっている。かつての球友がコーチを務め、選手たちの親にも知り合いが多くいる。ヌートバーは、エルセグンド・リトルリーグに打撃用の手袋とリストバンドを贈り、選手たちはそれを使って炎天下での戦いを勝ち抜いていった。
10月1日(同2日)のシーズン最終戦まで残り28試合。ヌートバーのラストスパートは見ものである。
(「MLB公式サイト」ジョン・デントン / John Denton)