“幻”になったノーノー…好投が報われない右腕の悲劇 セイバー目線で選ぶ8月のセMVP
貯金「11」作った阪神、本塁打は5位も…光った得点力
各順位間のゲーム差が開きつつあるセ・リーグの8月度「月間MVP」を、セイバーメトリクスの指標で選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数などはセイバーメトリクスでは個人能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。
8月のセ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。
・阪神:18勝7敗
得点率4.52、打率.280、OPS.738、本塁打16、四球率9.6%、失点率2.95、先発防御率3.08、QS率40.0%、救援防御率1.58
・広島:13勝11敗3分
得点率3.89、打率.239、OPS.675、本塁打27、四球率7.4%、失点率4.21、先発防御率3.74、QS率44.4%、救援防御率3.61
・DeNA:13勝12敗1分
得点率3.73、打率.255、OPS.678、本塁打20、四球率5.0%、失点率3.24、先発防御率2.96、QS率53.8%、救援防御率3.12
・巨人:12勝14敗
得点率4.45、打率.272、OPS.784、本塁打31、四球率6.8%、失点率3.58、先発防御率2.97、QS率61.5%、救援防御率3.80
・ヤクルト:10勝16敗1分
得点率4.00、打率.245、OPS.690、本塁打19、四球率8.4%、失点率4.38、先発防御率4.18、QS率51.9%、救援防御率3.70
・中日:9勝15敗1分
得点率2.46、打率.236、OPS.610、本塁打10、四球率6.1%、失点率4.13、先発防御率3.34、QS率40.0%、救援防御率4.31
8月の月間順位は同31日終了時点でのリーグ順位と一致した。月間首位の阪神は月間防御率2.55が1位、月間得点率4.51が2位と盤石の戦いぶりだった。投手力は元々定評があったが、ここにきてリーグ屈指の得点力を披露し始めた。月間16本塁打は5位と巨人の34本の半分以下も、OPSがリーグ2位。出塁率.325、四球率9.6%が2位以下を大きく引き離しているのと同時に、長打率.382が巨人に次いで2位となっているからである。
岡本和が月間12HR…1週間で9本塁打の固め打ちも
そんなセ・リーグのセイバーメトリクス指標による8月の月間MVP選出を試みる。打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAを用いる。セ・リーグの打者のwRAAランキングは以下の通り。
・岡本和真(巨人)wRAA14.73、97打席、OPS1.216、打率.318、本塁打12
・牧秀悟(DeNA)wRAA11.03、111打席、OPS1.045、打率.362、本塁打7
・大山悠輔(阪神)wRAA9.58、119打席、OPS.874、打率.337、本塁打2
・マット・デビッドソン(広島)wRAA9.49、89打席、OPS.955、打率.259、本塁打9
・近本光司(阪神)wRAA9.22、123打席、OPS.942、打率.327、本塁打4
・ドミンゴ・サンタナ(ヤクルト)wRAA8.70、105打席、OPS.974、打率.340、本塁打4
・堂林翔太(広島)wRAA7.87、70打席、OPS1.088、打率.371、本塁打5
・村上宗隆(ヤクルト)wRAA7.46、103打席、OPS.943、打率.274、本塁打5
・坂本勇人(巨人)wRAA7.23、84打席、OPS.963、打率.307、本塁打5
上記のランキングに掲載されていないチームのwRAA上位の選手は以下の通りである。
・細川成也(中日)wRAA2.43、101打席、OPS.788、打率.253、本塁打5
最も打撃でチームに貢献したことを示していたのは岡本和。月間12本塁打はトップで、そのうち9本は8月2日から8日の1週間に集中した。2日と3日のヤクルト戦ではどちらも2本塁打、6日の広島戦では3本塁打を記録している。
全打席凡退も4試合しかなく、リーグ1位の得点力の原動力となった。8月29日に今季初の登録抹消となってしまったが、それまでの貢献を鑑み、岡本和を8月のセ・リーグ月間MVP打撃部門に推薦する。
中日・柳は幻のノーノー…打線の援護なく快挙はならず
投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAを用いる。
・柳裕也(中日)RSAA6.64、登板4、イニング27回1/3、防御率1.65、WHIP0.88、奪三振率6.91、QS75%、HQS率75%
・トレバー・バウアー(DeNA)RSAA5.55、登板6、イニング43、防御率1.67、WHIP1.00、奪三振率7.33、QS83%、HQS率67%
・フォスター・グリフィン(巨人)RSAA4.80、登板3、イニング20、防御率0.90、WHIP0.80、奪三振率7.65、QS100%、HQS率67%
・高橋宏斗(中日)RSAA4.69、登板4、イニング27、防御率1.33、WHIP0.93、奪三振率7.67、QS100%、HQS率75%
・島内颯太郎(広島)RSAA3.97、登板13、イニング13、防御率1.38、WHIP1.08、奪三振率11.77、11ホールド
上記のランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の投手は以下の通り。
・西勇輝(阪神)RSAA2.02、登板2、イニング12回2/3、防御率1.42、WHIP0.87、奪三振率5.68、QS50%、HQS率50%
・小川泰弘(ヤクルト)RSAA2.01、登板4、イニング27回2/3、防御率2.28、WHIP1.05、奪三振率5.20、QS100%、HQS率50%
目立ったのはバウアーだろう。6試合に先発と、近年のNPBでは稀有な登板数だ。しかも5試合が屋外球場で、そのうち4試合で7イニング以上を投げた。猛暑の影響で各球団が投手のやりくりに苦難した中、イニングイーターとして大きく貢献した。
最も貢献度が高かった投手は柳だ。4登板中3登板でHQSを記録。8月13日の広島戦では打者30人に許した出塁は四球2、死球1、失策の2のみ。延長にもつれ込み“幻”となったが、9回を投げて無安打無失点の快投を見せた。
20日のヤクルト戦では8回を無四死球、被安打5、ソロ本塁打による1失点で完投した。しかし2試合とも味方の援護が0で勝ち星には恵まれなかった。苦戦が続くチームの中でローテーション投手としての役割を果たし続けている柳をセ・リーグ月間MVP投手部門に推薦する。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。