優勝へばく進、阪神はなぜ強い? 激変した“1点の価値”…元コーチが唸る岡田采配

阪神・岡田彰布監督【写真:荒川祐史】
阪神・岡田彰布監督【写真:荒川祐史】

2005年の前回優勝時に2軍バッテリーコーチだった中尾孝義氏

 阪神が2005年以来18年ぶりのリーグ優勝に近づいている。前回優勝時の指揮官も岡田彰布監督だったが、当時2軍バッテリーコーチを務めていた野球評論家・中尾孝義氏は「2005年の優勝と今年では、中身が全く違う」と指摘。「今季の躍進の最大要因は岡田采配でしょう」と見る。岡田監督自身、2008年限りでいったん阪神を退団した後、オリックス監督(2010~2012年)や評論家活動を経て、進化を遂げている。(成績は7日現在)

 2005年の優勝時には、ジェフ・ウィリアムス氏、藤川球児氏、久保田智之氏のリリーフ3人が7、8、9回を担う勝利の方程式「JFK」が確立。野手陣も37歳のシーズンを迎えていた金本知憲氏、矢野輝弘(現・燿大)氏らベテラン陣が中心となり、攻守に安定感があった。中尾氏は「6回までリードしていれば勝つ可能性が高かったですし、岡田監督がいろいろと策を講じなくてもゲームをつくれました」と振り返る。

 しかし、今季は中堅・若手が中心。「臨機応変の作戦、継投、野手の交代などがよくハマっていました」と中尾氏。岡田采配が今季成績にどれほど寄与しているかは、1点差試合の成績が23勝10敗で、リーグ断トツの勝率.697に上るところに表れている。

 昨季の1点差試合は20勝25敗、前回優勝した2005年も14勝19敗と負け越していた。「どんなチームも大勝する時があれば、大敗する時もありますが、競った時に勝てることが一番大事。そういう時こそ監督の作戦、用兵がものを言うケースが多いのです」と中尾氏は持論を述べる。

 阪神のチーム打率.248はリーグ3位、チーム67本塁打は同5位にも関わらず、481得点はリーグトップ。打率、本塁打の割に得点が多いのは、効率的な攻撃ができている証拠だろう。盗塁、犠打、犠飛が多いのは昨季も同様だったが、今季は岡田采配の下、四球数が昨季358から今季リーグ最多の439に増え、出塁率をリーグトップの.325に押し上げている。

2004年から2006年まで阪神2軍でコーチを務めた中尾孝義氏【写真:中戸川知世】
2004年から2006年まで阪神2軍でコーチを務めた中尾孝義氏【写真:中戸川知世】

「突出したキャリアのある選手はいないが、うまく波に乗せた」

 人材の配置も絶妙だった。昨季遊撃レギュラーだった中野拓夢内野手を二塁へコンバート。昨季1軍では41試合出場だった木浪聖也内野手を遊撃に据えた。中野が昨季ショートで18失策だったが、木浪は今季7失策。さらに木浪は打撃でも、8月26日の巨人戦(東京ドーム)で今季1号の満塁本塁打を放つなど勝負強さを見せ、“恐怖の8番”として機能している。

 佐藤輝明内野手は、昨季は右翼(80試合先発)と三塁(63試合先発)を掛け持ちしていたが、今季は三塁に専念。「内野の中でポジションが変わる分にはそれほどでもないが、三塁をやったり外野をやったりした昨季は、整理がつかずにしんどい時もあったのではないか」と中尾氏は推察する。

 また、大山悠輔内野手を全122試合で4番に据える一方で、3番には調子によってシェルドン・ノイジー外野手、ドラフト1位ルーキーの森下翔太外野手、弱冠20歳の前川右京外野手を配し、若手の成長とチームの活性化も促した。

 投手陣では、3年目の村上頌樹投手がプロ初勝利から白星を積み重ね、一気に先発ローテの軸に成長。昨オフの現役ドラフトでソフトバンクから移籍した大竹耕太郎投手も、今季初登板から無傷の6連勝でチームを上昇気流に乗せた。

 中尾氏は「今季の阪神の選手には、突出したキャリアのある選手はいませんが、岡田監督が選手1人1人をうまく波に乗せていたと思います。岡田監督の采配に応える選手も素晴らしいです」と評する。66歳の現役最年長監督のタクトが、比較的若い選手たちを躍動させた結果が出ている。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

JERAセ・リーグAWARD

RECOMMEND

CATEGORY