千賀は「15勝していてもおかしくない」 新人王有力候補へ…渡米後見せた“修正力”

メッツ・千賀滉大【写真:ロイター】
メッツ・千賀滉大【写真:ロイター】

シーズンは最終盤…千賀の2桁勝利は「いかに凄いことか」

 メジャーリーグはいよいよシーズン大詰め。各チームが約20試合を残す中、地区優勝争い、ワイルドカード争い、タイトル争いなどが熾烈を極めている。すでに来季に向けてシフトチェンジしてしまったチームもあるが、個々の選手にとってはシーズンをいい形で締めくくり、高い評価と自信を深めて来季へ繋げたいところだろう。

 そんな中、野球評論家として活躍する井口資仁氏が注目したい選手が2人いるという。それがメッツの千賀滉大投手とブルージェイズの菊池雄星投手だ。置かれた状況はまったく違う2人だが、井口氏はなぜ千賀と菊池を気に掛けるのか。その思いと理由を明かしてくれた。

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 長いレギュラーシーズンが、いよいよ終わりを迎えようとしています。1勝の価値は変わらないと言いますが、9月の勝敗は順位変動に直結するため、ファンの皆さんも否が応でも一喜一憂してしまうのではないでしょうか。上位チームが熾烈なポストシーズン進出争いを繰り広げる中、今回は僕が9月に注目したい2人の日本人投手について話をしたいと思います。

 1人目は、今季からメッツに加わった千賀滉大です。ソフトバンクから海を渡り、チーム状況が悪い中でも移籍1年目から2桁勝利を達成。これがいかに凄いことか。今季はWBCから異次元の活躍をした大谷(翔平)に多くの注目が集まったこともあり、千賀がメジャーで示した価値の大きさが日本になかなか伝わらなかったように思います。

 日本とメジャーではボールが違い、思い通りに操るのはなかなか難しい。その中でも千賀は今、まさにホークスで見せていたようなピッチングができています。ここまで25試合に先発して10勝7敗、防御率3.08。6月になかなか勝ち星がつかない時がありましたが、ここに来て安定感が増している印象です。

野球評論家の井口資仁氏【写真:荒川祐史】
野球評論家の井口資仁氏【写真:荒川祐史】

打線の援護があれば「15勝していていもおかしくない」

 彼の凄さは、クオリティスタート(QS=6回以上自責点3以下)の多さにあるでしょう。25試合のうち半分以上の13試合でQSを達成。先発として「試合を作る」という役割を十分果たしていると言っていいでしょう。僕が解説した試合でも、打線の援護がなく勝利を逃したことがありましたが、内容的には15勝していてもおかしくない。僕はそう評価しています。

 千賀と言えば、代名詞とも言える「お化けフォーク」ですが、それを引き立てているのが高い修正能力と探究心です。ホークスで出始めの頃は、調子の悪い日はとことん悪い印象でしたが、ここ3、4年くらいでしょうか、次第に試合中に修正できるようになってきた。決め球のフォークまでなかなか持っていけないこともありますが、そういう時にうまくカットボールを使うようになってきた。

 メッツ移籍後はあまりカットボールを使っていませんでしたが、最近はカウントを整えたり、ファウルを打たせたりするのがカットボール。走りのいい真っ直ぐと合わせて追い込んだところにフォークで落とす。これだけフォークを警戒されていても打たれないわけですから、流石です。

 日本ではライバルチームの監督と投手ということで、なかなか話をする機会はありませんでしたが、今年のスプリングトレーニング取材時に話をした時、メジャー移籍に向けて本当に色々考えながら、すごく準備をしてきたなという印象を持ちました。日本でやってきたままの自分では通用しないと、フォーク以外の球種では握りをメジャー仕様に変えて開幕を迎えていましたが、普通は日本で成功したものをそのまま出したいと思うでしょう。そこに敢えて挑戦する姿勢からも、さらに進化したいという思いが伝わってきました。

 加えて、短期間であれ、(ジャスティン)バーランダー、(マックス)シャーザーというメジャーを代表する一流投手と共に時間を過ごせた経験は大きいと思います。シャーザーとは配球についてよく話をすると言っていましたから、持ち前の探究心で多くを吸収できたのでしょう。

 ナ・リーグは今季、ダイヤモンドバックスのコービン・キャロルが新人王の最有力候補。それを追うのが千賀とされています。先発するのはあと3、4試合でしょうが、その内容次第では千賀が最有力候補となる可能性もあるでしょう。新人王に挑戦できる機会は限られていますから、ぜひ頑張ってほしいですね。

ブルージェイズ・菊池雄星【写真:ロイター】
ブルージェイズ・菊池雄星【写真:ロイター】

2桁勝利にリーチ…菊池雄星に取り戻してもらいたい攻めの姿勢と躍動感

 もう1人、9月に注目したいのは菊池雄星です。メジャー5年目で初めての2桁勝利にリーチをかけたものの、1か月以上白星から遠ざかっています。今シーズンの前半は躍動感ある投球で打者を圧倒し、マウンド上でも堂々とした雰囲気をまとっていましたが、ここ数試合は丁寧にうまくまとめようとする投球が裏目に出ているようにも見えます。

 今年は真っ直ぐ、スライダー、チェンジアップを中心に球種を絞って、とにかく攻める姿勢で全球勝負にいくスタイルがうまくハマっていました。ストライクゾーン内に収まるならどこでもいい、打てるものなら打ってみろ、と投げていた。それが最近はボールを置きにいっている。投げ終えた後、跳ね上がるように足が上がることもなくなっています。あの足の跳ね上がりは調子のバロメーターとも言えるでしょう。

 メジャー移籍後、丁寧に丁寧に投げる姿が印象的でしたが、今年は今までとひと味違った菊池がいて、どんどん攻めの投球をしていたので、打者もマウンドからの圧を感じていたと思います。そもそも真っ直ぐにスピードも力もある投手。少々ボール球であっても、打者はバットを振らされてしまいます。2桁勝利が近づいたこと、あるいはチームがワイルドカード争いをしていることが、丁寧な投球を意識させているのかもしれませんが、前半のような威圧感や躍動感がなければ打者はバットを振らないでしょう。

 発言を聞いていても、前半戦は負けた試合でもポジティブな発言が多く、頼もしく思っていましたが、最近は「自分でまとめに行き過ぎた」「気持ちの部分で……」と受け身になっている。こういった気持ちやマウンド捌きの変化が監督にも伝わっているので、勝利投手の権利まであと少しという場面で交替となることが増えてきたのだと思います。ワイルドカード争いをする監督としては、受け身になっている雄星よりも、調子のいい中継ぎ陣へ早めに交替し、勝利の確率を高めたいと考えるのは当然です。

 ただ同時に、監督にも10勝に届かせたいと思う親心はあるものです。ベンチの信頼をもう一度取り戻すためにも、9月に残された登板でストロングフィニッシュをできるかどうか。攻める姿勢と躍動感を取り戻すことが、2桁勝利、ひいてはチームのポストシーズン進出を後押しすることになる。この状況を自分でぶち破って、来季以降にも繋がる成長を見せてほしいと思います。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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