プロ初登板でまさかの“大失敗” リリーフカーで登場も…押してはいけなかったボタン

阪神、オリックスでプレーした野田浩司氏【写真:山口真司】
阪神、オリックスでプレーした野田浩司氏【写真:山口真司】

野田浩司氏の1年目は3勝13敗…初登板で起きた“リリーフカーストップ事件”

 いきなりフル回転だった。九州産交からドラフト1位で阪神に入団した野田浩司投手(現・野球評論家)はプロ1年目の1988年、先発もリリーフもどちらもこなして規定投球回に到達した。「(監督の)村山(実)さんが経験させてくれたんですよ」。成績は42登板で3勝13敗、防御率3.98。チームは最下位だったが、いろんなことがあったという。なかでも巨人戦初登板(1988年4月13日、甲子園)は、忘れられないそうだ。

 ドラフト1位右腕で背番号は1。大きな期待の中でプロ人生をスタートさせた野田氏だが、キャンプは2軍スタートだった。「2軍宿舎では10人部屋でした。(ドラフト外も含めた)新人10人全員が同じ部屋。僕だけ社会人で、あとは高校生でした。2月中旬からだったか、1軍に呼ばれて宿舎も変わりましたけどね」。プロとのレベルの差はそれほど感じなかったという。

「最初はとんでもない世界なんだろうなと不安いっぱいで入ったんですけど、それまで金属バットが相手だったのが木製になって、紅白戦やオープン戦をやっていくうちに何勝できるとかはともかく、プロでやっていけるんじゃないかなって少しずつ思っていったんですよ」。順調に階段を上がっていき、開幕を迎えた。リリーフからのスタートで初登板は開幕3戦目の4月10日、広島市民球場での広島戦だった。

 1-4の6回から4番手でマウンドに上がり、2イニングを投げて無失点に抑えたが、実はこの時“失敗”したことがあったという。「無人のリリーフカーに乗って出てきたんですけど、降りる時に電源ボタンを押しちゃったんです。何もしなければ、そのまま戻っていくのに、電源を切っちゃって、リリーフカーを止めてしまったんですよ。それで、係員の人が来て……」。野田氏は、まさかの“リリーフカーストップ事件”でプロデビューとなったわけだ。

「でも、それよりも覚えているのが2試合目の登板です」というのが、甲子園での巨人戦だった。「先発がマイク(仲田幸司)さんで(1-2で)1点負けていて、6回1死満塁で(2番手として)出た。その場面は新人には酷ですよね。もうブルペンで『野田、いくぞ』って言われた時からウワーってなって、リリーフカーに乗っても手と足の震えが止まらなかったんですよ。グラウンドの雰囲気もすごくて(応援が)地響きするような感じで……」。

初勝利は巨人戦…右翼線の打球のファウル判定に救われた

 マウンドに上がってもその状態が続いた。「投球練習で1球もストライクが入らなかったんですよ。これはやばいなって思ったんですけど、どうにもならなかった。バッターは中畑(清)さんで、ストレートの押し出し四球でした」。ここで野田氏はマウンド上でアクションを起こした。「もう何やっているんやって思って、自分でほっぺたをパチンと叩いたんです。そしたら、何か冷静になって、何とか抑えたんです」。

 野田氏はもともと巨人ファンだった。「もう巨人の選手の名前を見てもウワーでしたよ。原さん、中畑さん、篠塚さん、山倉さん、クロマティやってね」。“ひとりビンタ”で何とか乗り切ったものの、野田氏は「野球人生で、あれ以上の緊張感はないですね」とまで言う。「あれが一番、1年目は印象に残っています」と振り返った。

 そんな野田氏のプロ初勝利は同年6月28日の巨人戦(甲子園)だった。3-3の延長10回にリリーフ登板してゼロに抑え、その裏、田尾安志外野手がサヨナラホームランを放った。それまで0勝5敗。ようやく手にした白星だったが「あれもねぇ……」と苦笑する。「(10回表に)ランナー二塁で、ライト線に打たれたんですよ。ウワッ、やられたと思ったら審判がファウルって言ったんで……。それで抑えて、その裏に田尾さんがホームランを打ってくれたんですけどね」。

 この話には続きがある。「次の日、まだグラウンドは前の日のままにしてあって、練習にいって、何人かと『昨日はこの辺だったよな』ってボールが落ちたところを確認に行ったんですよ。そしたら白線の上にボールの跡があったんです。やっぱりフェアじゃんって。幻の得点で僕は勝てたんです。本当だったら、初勝利はもっと遠かったかもしれない」。“黒星地獄”にあえいだ1年目のこれも思い出のシーンだ。

「1年目はよく負けましたね。村山さんにはよく怒られました。『暑いところに行かすぞ、ファーム行かすぞ、気合入れて投げろ』ってね。それに発奮しましたね。2軍には1回も行ってませんからね」。1年目の7月2日のヤクルト戦(甲子園)ではプロ初完投勝利をマークした。被安打3で失点1の快投。「それも村山さんのおかげというのはありますよ」。通算222勝の2代目ミスタータイガース・村山実氏は野田氏にとって恩人のひとりだ。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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