39歳でも衰えぬ“宝刀”…打者絶望の「182」 救援転向が転機、稀代の守護神の凄み

日米通算250セーブを挙げたオリックス・平野佳寿【写真:荒川祐史】
日米通算250セーブを挙げたオリックス・平野佳寿【写真:荒川祐史】

今季は42試合で29セーブ、防御率はキャリアベストの1.13

 オリックスの平野佳寿投手は、2日の日本ハム戦で日米通算250セーブを達成した。日本人選手では、長い球史の中でもわずか4人しか存在しない、非常に希少な記録。過去3人の達成者(岩瀬仁紀氏、佐々木主浩氏、高津臣吾氏)は、いずれもNPBではセ・リーグ球団のみでプレーした投手たちだが、平野佳はNPBではオリックス一筋で活躍を続けてきた。すなわち、パ・リーグの投手としては初の快挙、という見方もできる。名球会入りの条件を満たした稀代の守護神が持つ凄みについて、より深く掘り下げていきたい。

 平野佳はプロ1年目の2006年から先発ローテーションの一角に加わったが、2008年は故障の影響で1軍登板を果たせず。戦列復帰を果たした2009年も精彩を欠いた。しかし、2010年のリリーフ転向が大きな転機に。同年は63試合で39ホールドポイント(HP)、防御率1.67と活躍を見せると、続く2011年はキャリア最多の72試合に登板。49HPを挙げ、自身初タイトルとなる最優秀中継ぎを獲得した。

 2012年途中にクローザーへ配置転換されて以降も好投を続け、2013年には60試合で31セーブ、防御率1.87と好成績を記録。翌2014年にはパ・リーグ史上初となるシーズン40セーブという快挙を達成し、自身初の最多セーブにも輝いた。

 MLBを経て2021年から古巣のオリックスに復帰。NPB復帰1年目の2021年は29セーブ、防御率2.30を記録し、ブルペンの精神的支柱として25年ぶりのリーグ優勝に貢献。翌2022年は28セーブ、防御率1.57と前年以上の安定感を発揮し、リーグ連覇と日本一奪還にも大きく寄与した。そして今季も42試合で29セーブを挙げ、防御率はキャリアベストの1.13。日米通算200ホールド、日米通算250セーブという2つの金字塔にも到達し、文字通り記録にも記憶にも残るシーズンを送っている。

 平野佳はNPBのみならず、大リーグの舞台でも見事な活躍を見せていた。MLB挑戦1年目の2018年には75試合で32ホールドを挙げ、防御率2.44を記録。決め球のフォークを武器にセットアッパーとして躍動し、世界最高峰の舞台でも存在感を示した。続く2019年は防御率こそ落としたものの、前年同様にフル回転で62試合に登板。マリナーズに移籍した2020年は終盤に調子を崩して防御率は5点台に終わったが、チーム事情に応じてクローザーも務めるなど、シーズン60試合のうち13試合に登板した。

通算の「K/BB」は3.77、一般的に優秀とされる3.50を上回る

 続いて、これまで記録してきた各種の指標をみていく。先発を務めたキャリア初期の奪三振率はさほど高くなかったが、リリーフに転向した2010年に奪三振率11.27を記録。そこから6シーズンで5度にわたって奪三振率10.00以上を記録しており、長きにわたって非常にハイレベルな水準を保った。

 また、MLBにおいても3年連続で奪三振率8.00以上を記録し、通算の奪三振率も8.95と、世界最高峰の舞台でも優れた数字を残した。NPB復帰後も2021年は7.74、2022年は8.22と、2年続けて一定以上の奪三振率を維持していたが、2023年は奪三振率5.40と、キャリアで最も低い数字となっている。

 また、与四球の少なさも目を引く部分だ。シーズン与四球率が3点台以上になったのはNPBでの実働14年間で2度のみで、通算与四球率も2.14と非常に優秀。与四球率が1点台以下のシーズンも5度存在するなど、優れた制球力は指標においても示されている。ただし、強打者が揃うMLBでは3年連続で与四球率が3点台以上となるなど、NPB時代に比べてやや慎重な投球スタイルになっていた。それでも、NPB復帰初年度の2021年には与四球率1.88と再びすばらしい数字を記録し、制球力が落ちたわけではないことを証明している。

「三振が多く、四球が少ない」という特性は、投手にとって理想的と言えるものだ。そして、奪三振を与四球で割って示す「K/BB」に目を向けると、平野佳の通算成績は3.77。キャリアの平均値が一般的に優秀とされる3.50という水準を上回っている点が、その非凡さを端的に示している。

 さらに、シーズンK/BBが3.50を上回ったシーズンがNPBでの14年のうち8度におよび、2012年には16.00という驚異的な数字を記録。また、2021年と2022年にも2年続けて3.50以上の数字を記録するなど、近年においてもハイレベルな投球を継続してきた。ただし、2023年は奪三振率の低下に伴い、K/BBも1.85とキャリア最低の数字に。それでも、与四球率は2.93と2点台を維持しており、四球から自滅するケースは今なお少ない。だからこそ、奪三振率の低下が成績面に大きな影響を与えていないとも考えられる。

NPBのみでの250セーブにもあと8個に迫っている

 本塁打を除くインプレーとなった打球が安打になった割合を示す「BABIP」は、投手にコントロールできる要素が少なく、運に左右されやすいものとされている。例を挙げると、平野佳の場合は防御率4.72だった2009年のBABIPが.327、防御率4.06だった2015年は同.321と、いずれもやや運に恵まれていなかったことが示唆されている。

 NPB復帰後の数字を見てみると、2021年のBABIPが.230、2022年が同.190と、やや運に恵まれていた傾向にあった。しかし、2023年のBABIPは.271と過去2年に比べて悪化し、被打率も.247まで上昇したものの、防御率は直近2年間を上回る数字を残している。この結果からも、今季の好成績が決して運に恵まれた結果というわけではないことがうかがえよう。

 最後に、今季の球種別の成績を見ていきたい。伝家の宝刀・フォークの被打率は.182と、今季も非常に優秀な数字を記録している。ストレートの被打率が.276、スライダーが.750と、他の球種の被打率はやや高くなっていることを考えれば、フォークが生命線となっていることがわかる。また、今季奪った24個の三振のうち、フォークで記録したものが19個。奪三振のうち79.2%を占めており、決め球と形容するに相応しい効果を発揮している。日米の強打者をなで斬りにしてきたフォークの切れ味は、大ベテランとなった今も投球を支えている。

 NPBでの通算セーブ数は242。「NPBのみでの250セーブ」まで、あと8個に迫っている。2021年のNPB復帰以降は3年連続で28セーブ以上を記録しているだけに、次なる快挙の達成にも期待がかかるところだ。

 先発からリリーフに転向し、新境地を開拓した2010年から14年。速球とフォークのコンビネーションと抜群の制球力を活かし、長きにわたって一線級で戦い抜いてきた39歳の剛腕が辿り着いた史上4人目の金字塔は、平野佳が球史に残るリリーバーであることを名実ともに証明する偉大な証として、これからも燦然と輝き続けることだろう。

(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY