虎主砲が驚異の9HR&3年目右腕が衝撃の制球力 セイバー目線で選ぶ9・10月のセMVP

阪神・佐藤輝明(左)と村上頌樹【写真:矢口亨】
阪神・佐藤輝明(左)と村上頌樹【写真:矢口亨】

阪神の独走を許した2位広島…借金「5」と低迷

 阪神が18年ぶりのリーグ優勝を破竹の11連勝で決め、広島が5年ぶりのクライマックスシリーズ進出を決めた9月のセ・リーグ。そんなセ・リーグの9月以降の「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。

 選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録を用いている。ただし、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標として扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。

 まずは、9月以降のセ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。

○阪神:16勝9敗1分
得点率3.50、打率.244、OPS.661、本塁打15
失点率2.54、先発防御率1.90、QS率57.7%、救援防御率3.08

○DeNA:15勝11敗
得点率3.58、打率.238、OPS.675、本塁打23
失点率3.36、先発防御率2.73、QS率65.4%、救援防御率3.59

○巨人:13勝12敗1分
得点率2.81、打率.231、OPS.654、本塁打25
失点率2.86、先発防御率2.14、QS率61.5%、救援防御率3.74

○中日:12勝12敗2分
得点率2.42、打率.206、OPS.565、本塁打19
失点率3.03、先発防御率2.66、QS率65.4%、救援防御率2.44

○広島:9勝14敗
得点率2.87、打率.250、OPS.659、本塁打13
失点率3.84、先発防御率3.97、QS率34.8%、救援防御率2.82

○ヤクルト:9勝16敗
得点率3.88、打率.243、OPS.705、本塁打25
失点率3.85、先発防御率4.41、QS率64.0%、救援防御率1.79

 阪神の強さが際立つなか、2位広島が勝負どころでの弱さを露呈した。9月8日からの阪神3連戦(甲子園)での3連敗を含め6連敗を喫し、阪神の独走を許してしまった。ヤクルトはリーグトップの得点率をあげながら、失点率もリーグワーストの数値に。投打の歯車がかみ合わず、最終戦まで最下位争いをする歯痒い結末となった。

四球ゼロ、抜群の制球力が光った阪神・村上頌樹

 そんなセ・リーグのセイバーメトリクスの指標による9月・10月の月間MVP選出を試みる。投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。「RSAA」の上位ランキングは以下の通りとなった。

○村上頌樹(阪神)
RSAA:6.96、登板4、イニング25回1/3、防御率1.07、WHIP0.75、奪三振率7.46、QS率75%、HQS率50%

○戸郷翔征(巨人)
RSAA:5.98、登板5、イニング38回、防御率1.18、WHIP0.68、奪三振率8.29、QS率80%、HQS率 80%

○山崎伊織(巨人)
RSAA:5.88、登板5、イニング37回、防御率1.70、WHIP0.73、奪三振率7.05、QS率100%、HQS率、60%

○赤星優志(巨人)
RSAA:5.34、登板4、イニング27回2/3、防御率1.95、WHIP1.01、奪三振率9.43、QS率100%、HQS率50%

○九里亜蓮(広島)
RSAA:4.94、登板5、イニング33回2/3、防御率2.14、WHIP1.07、奪三振率7.75、QS率60%、HQS率40%

○才木浩人(阪神)
RSAA:4.20、登板4、イニング26回、防御率0.35、WHIP0.73、奪三振率6.92、QS率100%、HQS率67%

 なお、上記のランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の選手は以下の通りである。

○平良拳太郎(DeNA)
RSAA:3.79、登板2、イニング14回、防御率0.64、WHIP0.86、奪三振率9.00、QS率100%、HQS率100%

○小川泰弘(ヤクルト)
RSAA:3.50、登板3、イニング21回、防御率2.14、WHIP1.00、奪三振率6.00、QS率100%、HQS率67%

○柳裕也(中日)
RSAA:2.84、登板4、イニング28回1/3、防御率1.27、WHIP0.67、奪三振率7.31、QS率100%、HQS率50%

 9月以降に最もRSAAが高かった投手は村上頌樹である。最優秀防御率のタイトルを獲得するなど年間を通して安定したピッチングを披露したが、9月以降の登板では四球0と抜群の制球力も目立った。セ・リーグの中でも随一と言われる阪神投手陣の中で、最も優勝に貢献したと言える成績を残した村上頌樹を9月以降のセ・リーグ月間MVP投手部門に推薦する。

勝負の9月で9本塁打、圧巻の打撃を見せた阪神の佐藤輝明

 打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す指標「wRAA」を用いる。パ・リーグの打者の「wRAA」ランキングは以下の通り。

○佐藤輝明(阪神)
wRAA:15.59、109打席、OPS1.107、打率.356、本塁打9

○塩見泰隆(ヤクルト)
wRAA:8.98、82打席、OPS.945、打率.300、本塁打3

○村上宗隆(ヤクルト)
wRAA:8.47、109打席、OPS.937、打率.264、本塁打7

○大山悠輔(阪神)
wRAA:7.88、110打席、OPS.883、打率.270、本塁打5

○小園海斗(広島)
wRAA:7.66、102打席、OPS.921、打率.365、本塁打2

○坂本勇人(巨人)
wRAA:7.62、96打席、OPS.936、打率.279、本塁打7

○大城卓三(巨人)
wRAA:6.05、82打席、OPS.910、打率.344、本塁打1

○牧秀悟(DeNA)
wRAA:5.73、112打席、OPS.845、打率.267、本塁打5

○門脇誠(巨人)
wRAA:4.84、107打席、OPS.787、打率.307、本塁打1

○ダヤン・ビシエド(中日)
wRAA:4.46、84打席、OPS.766、打率.257、本塁打4

 9月以降のセ・リーグで最も打撃でチームに貢献したことを示したのは佐藤輝明だ。入団から2年間は結果を残すことができなかった9月だったが、岡田彰布監督曰く「勝負の9月」において、3年目の今季は月間本塁打9本と持ち味の長打力を如何なく発揮した。

 また打率もリーグ2位の.356で、四球数はそれほど多くはないものの出塁率は.394を記録。チームの主軸としてリーグ優勝に多大な貢献をした佐藤輝明を9月以降のセ・リーグ月間MVP打撃部門に推薦する。

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。コミュニティサイト「鳥越規央のデータ野球部」を開設。
https://butaiura.fan/community/torigoenorio/

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