甲子園消滅→大学中退「人生が変わった」 志望届を出さず…元聖光学院エースの後悔

オイシックス新潟アルビレックスBC・舘池亮佑さん(写真は聖光学院時代)【写真:本人提供】
オイシックス新潟アルビレックスBC・舘池亮佑さん(写真は聖光学院時代)【写真:本人提供】

無残に阻まれた大会最長タイ記録「14年連続夏の甲子園出場」への挑戦

 2020年に新型コロナウイルスの感染拡大で、夏の甲子園が戦後初めて中止となってから3年。“悲劇の世代”の球児たちが甲子園に集結し、29日から3日間「あの夏を取り戻せ 全国元高校球児野球大会2020-2023」が開催される。あの夏に各都道府県が代替に行った独自大会の優勝校など、44チーム(当時の球児約800人)が出場する見込みだ。2020年当時、聖光学院高(福島)のエースだった舘池亮佑さん(現オイシックス新潟アルビレックスBC投手)に、心境を聞いた。

 聖光学院高は2007年から2019年まで、戦後最長の13年連続で夏の甲子園出場を達成した。ところが翌2020年、和歌山中が戦前の1915年から1928年までに記録した大会最長「14年連続」への挑戦は、無残な形で阻まれる。

 5月20日、ベンチ前に集められたナインは斎藤智也監督から甲子園中止を知らされた。「その後、3年生を中心に選手間で、これから何を目標にして野球をすればいいのかを話し合いました。みんな甲子園を目指して入学してきて、先輩たちが甲子園でプレーする姿を見て、自分たちもあそこでという気持ちで取り組んできたので、なかなか結論は出ませんでした」と舘池さんは振り返る。

 悶々とした日々が続いた中、方向を示してくれたのは、横山博英コーチの言葉だった。「甲子園に行くことが聖光の野球の全てではない。目標は甲子園だが、目的は人間としての成長だ。目標と目的を間違えてほしくない」。やがて福島県の独自大会が開催されることも決まり、聖光学院ナインは誰が言い始めたのかはわからないが、「心の中の甲子園」を合言葉に、練習に集中していった。横山コーチの言葉通り、甲子園という目標は胸の内に収め、1人1人が本来の目的である人間的成長を遂げようとしていた。

 舘池さん自身は、2年生の時に2度にわたって右肘を痛め、満足に投げられない時期が長かった。3年生になると右のサイドスローからの“ホップ系”のストレートが威力を発揮し、独自大会前、ついに背番号「1」を獲得する。独自大会では、決勝で光南高を完封し優勝。さらに東北6県の独自大会優勝チームによる東北大会でも、舘池さんが決勝で仙台育英(宮城)を完封し、8-0の大勝で優勝を飾った。

代替の福島県大会、東北大会で優勝も「人生が変わってしまった人がいる」

 夏の甲子園が復活した翌2021年、聖光学院高は福島県大会準々決勝で敗れ、「14大会連続」という形でも和歌山中の記録に並ぶことはできなかった。2020年の夏に甲子園があったら……と誰しもが思った。しかし、舘池さんは「僕たちは連続記録をつなぎたいという気持ちでやっていたわけではありません。1年1年、自分たちの代で甲子園に行きたいという思いで勝ち進んだ結果、13年続いただけだと思っています」と語る。「僕らの代も、記録には残らないかもしれませんが、県大会で優勝し、東北大会でも優勝して、甲子園を失ったにも関わらず最後までやり切れたと思っています」とうなずいた。

 とは言え、もちろん、夏の甲子園が消滅した影響は決して小さくなかった。「終わってしまったものを悔やんでも仕方がありませんが、翌年の夏の甲子園を見ていると、行きたかったなという気持ちが湧いてきました。何よりも、甲子園があるかないかで、人生が変わってしまった人がいると思います」。舘池さん自身の人生も「大いに変わったのではないかと、正直思ってしまいます」と打ち明ける。

 当時、NPB球団のスカウトも舘池さんに注目していた。後になってから人づてに「プロ志望届さえ提出していれば、ドラフト指名の可能性は高かった」という話も聞いた。「でも、あくまで独自大会止まりでしたから……。もし全国大会で強豪相手にいい投球ができていれば、自信を持ってNPBに行けていたかもしれない、という思いはやはりあります」と語るのもうなずける。

 舘池さんは進学した大学で野球を続けるも、2年で中退。今年7月、当時BCリーグの新潟アルビレックスBCに入団した。その後チームは、来季からNPB2軍のイースタン・リーグに新規参加することが内定した。舘池さん自身、元巨人投手の野間口貴彦チーム強化アドバイザー兼投手コーチらの指導で、成長を実感しているところだ。「今はNPBしか目指していません。ひたすら野球ができる環境にあるので、十分に使ってNPBに行けたらなと思っています」と目に光が宿っている。

今月29日から甲子園などで「あの夏を取り戻せ」全国大会開催

 そんな中、「あの夏を取り戻せ 全国元高校球児野球大会2020-2023」が開催されることを知った。今月29日に甲子園球場で、出場チームが5分ずつのシートノック、入場行進、セレモニーなどを行い、翌30日と12月1日には兵庫県内の球場に分かれて交流試合を戦う。

 舘池さんは当初「高校生に戻れるわけではない」と違和感を抱いたと言う。しかしSNSなどを通し、同い年の元球児である大武優斗さん(東京・城西大城西高OB)が発起人となり、ゼロから大学生ボランティアによる実行委員会を立ち上げて奮闘している姿を知り、考えが変わった。「大武くんたちは真剣に、空っぽだった時間を少しでも埋めようとしてくれている。大人から『やってみないか?』と言われてやっているのではなく、逆に大人を巻き込み、企業の協賛を集めたりしているところは、同世代として『すごいな』と思います」と感嘆する。

 同世代の元球児たちが、止まっていた時間を再び動かそうとしているのを感じながら、舘池さんも「人生、何があるかわからない。3年前の事も自分に必要なものだったのだと、プラスに捉えるようにしています」と前向きに受け止めようとしている。

 実行委員会では、企業の協賛やクラウドファンディングを募り、球場貸し出し料金など大会予算約6450万円のうち、約3000万円を調達済みだが、不足分を埋めることは大きな課題。このままでは宿泊費、交通費などが出場選手の自己負担となり、遠方からの出場チームが参加を取りやめてしまう可能性も出てくる。発起人の大武さんは「ご支援を頂ければと思います」と、12月1日までのクラウドファンディングへの協力を、野球を愛する方々へ呼びかけている。

【あの夏を取り戻せ! クラウドファンディングはこちら】
https://ubgoe.com/projects/444/

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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