涙の敗戦投手を救った「お前のせいじゃない」 日本一逃すも…寂しい背中に温もりの手

オリックス・宮城大弥(左)と西野真弘【写真:荒川祐史、真柴健】
オリックス・宮城大弥(左)と西野真弘【写真:荒川祐史、真柴健】

オリックス・宮城の涙に「来年やり返そうな」

 そっと伸ばした右手には、確かな温もりがあった。オリックスの西野真弘内野手は、5日に京セラドームで行われた阪神との「SMBC日本シリーズ2023」第7戦を終えると、先発登板した宮城大弥投手の背中に手を当てた。1-7で敗れ、2年連続での日本一を逃した直後だった。

 激闘を繰り広げた阪神ナインへ、賛辞の拍手を送った。年間を通して応援してくれた本拠地のファンに「1年間の感謝を(場内に)伝えて……。お礼の意味を込めて、挨拶をしてベンチに戻ろうとしたら、たまたま宮城が前を歩いていたんです」。背中を丸める13番が、少し寂しそうに映った。

「ずっと我慢していたんだと思います。下を向いて、グッと堪えていた。だから、思わず手を伸ばしました」

 ポンポンと背中に手を当て「お前のせいじゃない、来年やり返そうな」と伝えた。「それ以上の言葉を交わす訳はなかった。彼なりにプレッシャーのかかる中でマウンドに上がっていましたし、いろんな思いを背負っての投球だった。だから、相当悔しかったんだろうなって。それが後ろ姿から伝わってきたんです」。涙目だった宮城は、さらに目を充血させた。

「何かを言って欲しいという場面ではないだろうから、本当に一言だけですよ。負けちゃって、1人で下を向いて歩いていたので、それも何かなぁ……という感じでした。僕は(7戦目は)ベンチに入っていなかったんですけど、当然、悔しさがありました」

 俯き加減の22歳を、温かい手で救った。勝てば日本一の第7戦、宮城は5回途中5安打5失点でマウンドを降りた。「最後は負けてしまいましたけど、宮城の活躍がなければ僕たちはここまで来れてませんから」。西野が発する言葉に、重みがある。

33歳の西野真弘「必死に頑張る場面の繰り返しで1年が終わる」

 第1戦に先発登板したエースの山本由伸投手が、まさかの6回途中10安打7失点で黒星スタートを切った。「1戦目でね、由伸が打たれちゃってね。また違ったプレッシャーが宮城にもあったと思う。そこで好投してくれて。一緒に(お立ち台に)上がれたのでね。僕も日本シリーズでお立ち台に上がれるなんて、思ってもいなかったので。本当に嬉しかったですよね」。宮城は第2戦に先発して6回4安打無失点の好投。1勝1敗に戻し、チームを建て直した。

 西野にも奮闘する理由があった。10月29日の第2戦は「2番・二塁」でスタメン出場。3回に先制点となる適時三塁打を放ち、ヒーローインタビューを受けた。「前日(第1戦)はベンチを外れていて、2戦目はスタメンを任せてもらえた。『楽しんでやりたい』という一心でしたね」。抜かりない準備が生きた。

 ベンチメンバーを外れた第1戦、西野は一塁側のネクストバッターズボックス後ろの金網から、試合を覗いていた。「雰囲気を味わいたいなと。応援も凄いと聞いていたので、1番近くで見てイメージを膨らませて準備していましたね」。シーズン中もベンチを外れる日が何度かあった。「だから、何も思いませんでした。自分の出番が来たら、一生懸命やるだけなので」。そう話すと、パッと目を見開いた。

「毎日、必死です。僕も結果を出さないと、若い選手がいっぱいいるんでね。チャンスをもらえたら、どの場面でも結果を出す。ここ最近、毎年ですけど、振り返るのはシーズンが終わってからにしています。必死に頑張る場面の繰り返しで1年が終わるので」

 33歳。酸いも甘いも噛み分けてきた。「日本一にはなれなかったけど『関西ダービー』で7戦目まで戦って、ファンの皆さんにも喜んでもらえたシーズンだったと思います。悔しい思いはある。だから、また頑張れるんです」。届かなかった1歩を、また踏み出す。宮城の胸中を察した男は、流した涙を無駄にはしない。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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