1年で戦力外、飛んだ様々な憶測 元オリ育成右腕の苦悩…支えになった山本由伸の理解

元オリックス・西濱勇星【写真:北野正樹】
元オリックス・西濱勇星【写真:北野正樹】

オリックス在籍1年で戦力外通告を受けた西濱勇星投手が山本由伸に感謝

 金言を胸に新しい挑戦に突き進む。オリックスから1年で戦力外通告を受けた西濱勇星投手は、静岡県に誕生する新球団「ハヤテ223(はやて・ふじさん)」で再び輝く舞台を目指す。2023年育成ドラフト1位で入団し、1年で戦力外になった21歳に熱いメッセージを送ったのは、来季からメジャーの舞台での奮闘を誓う山本由伸投手だった。

 西濱は、登板間隔の問題で1軍遠征に同行せず大阪・舞洲で調整を行っていた山本に練習方法を相談したことがきっかけで、親しくなった。西濱は関東学園大学付属高時代、父の孝光さんがYouTubeで見つけたMLBレッズのハンター・グリーン投手の調整方法を参考に、当時107キロだった球速を147キロにまで伸ばしたことがある。

 入団時からブレることなく独自のトレーニングを続け、ドラフト4位指名ながらも日本のエースにまで登りつめた山本は、西濱にとって、どうしても超えたいと目標にする存在だった。山本も西濱の練習に臨む姿勢や、体の使い方などを真剣に学ぼうとする日々が頼もしく思え、協力を惜しまなかった。

 チーム事情もあったが、育成契約の新人投手がわずか1年で戦力外通告を受けたことで、ファンの間では様々な憶測が飛んだ。練習にストイックでブレずに信念を貫く西濱について、山本は「すごく純粋で、真っすぐ。みんなから勘違いされやすく、勇星も苦労しているところがあると思うけれど、負けずに頑張ってほしい。分かってくれる人は、分かってくれると思います」と、そっと背中を押す。

 西濱は今、山本が指導を受ける施設で、本格的なトレーニングを行っている。「由伸さんや(山下)舜平大の練習に取り組む姿勢や、宮城(大弥)さんのような人間的な素晴らしさにも触れることができ、これから野球を続けていくにあたって、これ以上ない1年でした。今、取り組んでいるエクササイズは感覚を見つけ出すのにまだまだ時間がかかるのですが、ちょっとの積み重ねがやがて大きくなると思います」。21歳の夢は広がるばかりだ。

西濱がトレードマークの丸刈り頭をやめた理由

 西濱は独立リーグBC群馬ダイヤモンドペガサスから2023年育成ドラフト1位でオリックスに入団。最速155キロのストレートを武器としたが、ウエスタン・リーグの公式戦3試合に登板しただけでチームを去ることになった。今季は4月下旬に左足の内転筋を痛めると、その後は右ふくらはぎ痛、ウイルス性胃腸炎、首の寝違えと続き、7月には新型コロナウイルスに罹患。長く戦列を離れ、グラウンドに戻るまで時間を費やした。

 それでも、自己鍛錬は怠らなかった。ブランクを埋めようと、早朝に無人の室内練習場で個人練習に打ち込んだ。集中したい思いに加え、迷惑を掛けず、誰にも知られたくないとの思いから照明もつけなかった。しかし、丸刈り頭が室内練習場の東側の窓から差し込む朝日に照らされ、人の気配がすることを寮生から聞いた。

 当時の心境は「普通に練習しても目立つから、とにかく隠れて影を薄くしようと思いました」。BC群馬時代から「1日も早くNPBへ」と貫いてきたトレードマークの丸刈り頭をやめたのには、そんな理由もあった。人目を避けて練習するストレスもあり、体重は入団時から15キロも減少してしまったのだった。

「ハヤテ223」は、ウエスタン・リーグに参戦するため、オリックスのファームとも対戦する。「体重も戻り、今はかなり良い状態です。オリックスにも、由伸さんにも恩返しをするためにも、これから先、10年、20年と結果を出し続けたいと思います」。メジャーと新球団。新たな挑戦が2人の結びつきをさらに強くしている。

〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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