突然の“移籍通告”も…直後に向かった遊園地 1年で戦力外も感謝する家族の支え

ヤクルト、オリックスでプレーした渡邉大樹【写真:真柴健】
ヤクルト、オリックスでプレーした渡邉大樹【写真:真柴健】

オリックスから戦力外通告を受け、引退を決断した渡邉大樹「覚悟してました」

 突然の電話から始まった、激動の1年だった。オリックスから戦力外通告を受け、現役引退を決意した渡邉大樹外野手は、2022年に行われた第1回目の現役ドラフトでヤクルトから移籍していた。

 練習終わりに車を走らせ、帰路に就いた瞬間だった。「家に到着するタイミングで電話が鳴って『オリックスに移籍が決まりました』ということでした。慌てたりとかはなく、冷静だったんですけど、玄関を開けてすぐに家族に言いましたね」。2022年12月9日。愛妻と一緒に家で待っていた息子が1歳のバースデーを迎えた日だった。

「もちろん、現役ドラフトのことも頭にありましたけど、メインは誕生日でしたね(笑)。ドラフト指名を受ける選手みたいに、自分がかかるかどうかは完璧にはわからないので……。午前中に練習をして、帰ってからは『よみうりランド』に行く予定でした。誕生日のお祝いをするつもりだったので……」

 靴を脱いですぐ、妻に“転勤”を伝えた。戻ってきた言葉は「おめでとう!」だった。「うちの奥さんは野球のことを何も知らないので、大阪に行くことになったという感じで伝えたら『もちろん行くよ』と言ってくれました。『単身でもいいけど……』というニュアンスで伝えたんですけど、その答えがポジティブで感謝しかなかったです」。唐突な出来事にも笑顔で迎えてくれる妻に頭を下げた。

現役ドラフト当日は「今でも楽しい家族の思い出ですね」

 しばらくすると、報道でオリックス移籍を知った関係者からの連絡が絶えなかった。「たくさん連絡を頂いたりして、バタバタだったんですけど、妻に『どうする?』と、よみうりランドに行くことを聞くと『行こうよ! 家に居たら不安の気持ちの方が大きくなりそうだから』と言ってくれました」。ハンドルを握り、予定通り息子の1歳を祝った。

「だから、寂しいとか悲しい気持ちはなかったです。今でも楽しい家族の思い出ですね」

 誕生日プレゼントは「トーマスのプラレールです。タイヤに興味を持ち出して、ずっと(おもちゃの)タイヤを回していたので」と父の顔を見せると、真剣な表情で言葉を続ける。

「1人の野球人として、優勝チームから優勝チームに移籍することは、なかなかないと思うので、凄く嬉しかったです」。2021年、2022年はヤクルトの一員としてオリックスとの日本シリーズに臨んでいただけに「強いチームに飛び込む覚悟はしていました」と深くうなずく。3連覇を果たし、戦力の分厚いオリックスから今オフに「構想外」を伝えられた。

「今年、言われる覚悟をしていました。ここ3年ぐらい、覚悟を持ってプレーしていました。今年は特に、この1年で結果を残せなかったら(戦力外)と理解して行っていたので」

 涙はなかった。改めて荷物を段ボールに詰めた。新たな居場所に向かっても、家族が寄り添ってくれる。温もりを感じた1年間だった。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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