「体重は2キロ増えましたけど」宇田川優希が種子島で得たもの 昨季の失敗を取り返す“覚悟”

オリックス・宇田川優希【写真:北野正樹】
オリックス・宇田川優希【写真:北野正樹】

オリックス・宇田川優希「体脂肪率は減って筋肉量が増えています」

 より一層と引き締まった顔を見て、同僚たちは驚きの声を上げた。1月8日、新年になって初めて大阪・舞洲の球団施設を訪れたオリックスの宇田川優希投手は“納得”の表情だった。「体重は2キロ増えましたけど、体脂肪率は減って筋肉量が増えています」。充実感が漂った。

 年末年始は自主トレで訪れた鹿児島県中種子町で過ごした。鹿児島市から南へ約115キロ、人口3万人ほどの離島で、日本に初めて鉄砲が伝来した歴史的な地でもある。一方で、1月12日に政府の情報収集衛星を搭載したH2Aロケット48号機が打ち上げられた種子島宇宙センターがあり「宇宙に1番近い島」と呼ばれる最先端の島でもある。

 12月27日から1月4日まで、宇田川は種子島に滞在。野球場に陸上競技場、ウエートトレーニングができる施設があることを、種子島に移住している知人から教えてもらったのがきっかけだった。充実した施設以上に惹かれたのが練習環境で「年末年始は、どうしてもだらけてしまいます。島なら遊ぶところはあまりないし、周りは海で、野球に集中できると思いました」。球団施設が閉鎖されると、様々な誘惑が待ち受ける都会と決別し、自らを律することができる場所を選んだ。

 1年前とは、シーズンに臨む準備が大きく変わった。2022年は7月に支配下選手登録された後、セットアッパーとしてリーグ連覇、日本一に貢献。オフは寮生のため球団施設でトレーニングを欠かさなかったが「引っ越しの準備や退寮後に外食が多くなってしまった」ことなどから、体重が増加してしまった。

 第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を控えた、宮崎での春季キャンプでは、中嶋聡監督から「山本(由伸)と宮城(大弥)はしっかりと投げているとは思いますが、宇田川の方は全然ですね。ボール自体(の問題)じゃないでしょ。調整不足じゃないですか。全く出来上がっている状態には見えないし、いい状態ではないですね。誰が見てもそう思うでしょ。どういうオフを過ごしてきたか分からないですけど。そういうところ(日本代表)に入っている自覚があるのか、ないのか。そこが甘さだと思います。はっきり言って、今のままじゃ使い物にならないんじゃないですか」と酷評されてしまった。

宇田川を見た厚澤投手コーチ「表情が1番違いますね」

 動けない体ではないため、体重ばかりが問題視されることに違和感を覚えたこともあったようだが、実質2年目の2023年は2軍で調整する期間もあった。年間を通してチームに貢献する重要性を再認識し、今オフは4勤1休のペースで舞洲に通い、ランニングやキャッチボールに汗を流すと、長時間、ウエートルームにこもる日々だった。

 高知での秋季キャンプ前に98キロだった体重を93、94キロまで落としていた。種子島の自主トレでは2キロ増えたが、顔は引き締まった。その理由は食生活にあったという。宿舎の朝食に、昼食は知人の奥さんの炊き出しや弁当、夜は新鮮な魚介類や馬刺しを多く食べた。牛肉などに比べ、高たんぱくで低カロリーと言われる馬刺しが厳しいトレーニングを支えてくれた。

「98キロでも、別に体が重いとは感じませんでしたが、これまでの一気に太って一気に痩せようとした反省から、食事をしっかりと摂りながら体脂肪率が下がり筋肉量が増えるという良い絞り方ができました。2キロしか体重は変わりませんが、筋力がつくなど筋肉の質が違います」

 離島での自主トレの成果に胸を張る。9日、監督やコーチのスタッフ会議で訪れた舞洲で、厚澤和幸投手コーチは「体はもちろんですが、表情が1番違いますね。背番号も若くなって心機一転、やる気が伝わります。1年間通して投げ抜くための準備を、オフの間にちゃんとして来てくれたと思います」と頼もしそうに見つめた。

 2月2日から始まる春季宮崎キャンプでは、アピールする立場ではないとの首脳陣の判断もあり、調整を任される見込み。「シーズン終了後に、こうしたいと決めた通りになっています。(体重のことを)もう言わせない自信があります」。自覚を胸に、2024年シーズンも腕を振る。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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