「見栄えを意識しろ」 6年ぶり聖地へ…ノムさん門下生の指揮官が選手に説くワケ

選抜出場が決まった中央学院の選手たち【写真:宮脇広久】
選抜出場が決まった中央学院の選手たち【写真:宮脇広久】

中央学院・相馬監督は「シダックス」で野村克也氏の薫陶を受けた

 中央学院(千葉)が26日、第96回選抜高校野球大会の出場校に選出された。選抜出場は6年ぶり2度目。相馬幸樹監督は、故・野村克也氏が社会人野球「シダックス」で監督を務めた時の教え子で、万感の思いで吉報を受け止めた。

 相馬監督は校舎内で大勢の報道陣に囲まれ、福嶋翔平野球部長、横田一弘校長らとともに、選抜出場校発表のインターネット中継に目を凝らしていた。「中央学院」の名前が読み上げられても、ポーカーフェースを崩さない。隣に座る福嶋部長と握手を交わし、歓声を上げる学校関係者へ頭を下げただけだった。

 しかし、グラウンドで練習中の選手たちへ吉報を伝えに行く途中、感極まって立ち止まると、しばらくハンカチで顔を覆った。「発表の時は冷静な気持ちでいられたのですが、子どもたちがグラウンドに集まっているのを見た時、抑えきれない感情が出てきました」と胸の内を吐露した。

 昨秋の関東大会で8強入り。選考では「関東・東京」(6枠)の“最後の1枠”を、同じく昨秋関東大会8強の桐光学園(神奈川)、東京大会準優勝の創価などと争い、勝ち残った。選出決定の際に喜びを露わにしなかったのは、「同じ気持ちで選考結果を待っていた、(落選した)相手校の皆さんの心境も痛いほどわかった」からだ。

 相馬監督自身は市立船橋(千葉)2年時の夏に甲子園出場を果たすも、スタンドで応援。3年の夏は控え投手として甲子園の準々決勝まで駒を進めたが、登板機会はなく「ブルペンで肩をつくっただけでした」と苦笑する。

 大体大を経て、シダックスで2年間プレー。現役最終年の2003年に野村氏が監督に就任し、1年目の指揮を執った。「野村監督はよく『俺は気づかせ屋だ』とおっしゃっていました。私も(頭ごなしに指導するのではなく)、選手に気づかせることができるようにと心がけています」と語る。選手とのフラットな関係、綿密なコミュニケーションがあればこその指導法だ。

2022年から髪型を自由化「ウチはユニホームがハイカラなので」

 現役引退後は、大体大の大学院修士課程でスポーツ心理学を専攻し、2007年から中央学院で指揮を執っている。「野村さんはしっかりとしたロジックで説明される方だったので、私も選手たちにはプレゼン形式で、なるべく映像や資料を見せながら伝えるようにしています」と語る。

 野村氏のミーティングで学んだこと、野村氏が説いていたボールカウントごとの打者心理なども抽出して資料にまとめ、アップデートを重ねながら、選手たちがスマホやタブレットを通じて自由に閲覧できるようにしてある。

 主将の中村研心内野手(2年)は「相馬監督は、熱いというより爽やか。『見栄えを意識しろ。走り方、立ち姿が美しくないと、野球もうまくならない』とおっしゃっています」と評する。2022年2月からは、丸刈りでそろえていた髪型を自由化。中村主将は「ロンゲでいいというわけではなく、監督から『スポーツマンにふさわしい髪型を自分で考えろ』、『1人1人が私生活を含めて、アスリートの自覚を持て』と言われています」と言う。野村氏もプロ選手に金髪、ひげを禁じ、ユニホームの着こなしなどに品性を求めていた。

 相馬監督は、髪型を自由化した理由を「ウチはユニホームがハイカラなので、髪を伸ばした方が似合うのではないかと思った」と説明する。確かに、中央学院のユニホームはブルーのストライプで、アンダーシャツも明るいブルー。「古豪のユニホームには丸刈りの方がフィットする。丸刈りにも丸刈りのかっこよさがあり、古き良きものを否定する気はありません。ただ、多様性の時代で、子どもたちが選択する時代になってきているのではないかと思います」と目を細める。

 2018年春に初めて中央学院を甲子園へ導き、同年夏にも再び聖地の土を踏んだが、いずれも初戦敗退。まずは甲子園初勝利が目標になる。甲子園から遠ざかっていた5年間を「不安との戦いでした。本当にこのやり方で合っているのか、自問自答を繰り返しました」と万感の思いで振り返った。

 野村氏らから継承し、自ら磨きをかけてきた野球を、全国の舞台に問うチャンスがやってきた。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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