迫られた大手術も「考えが子どもだった」 どん底に落ちた内藤鵬が掴んだ“希望の光”

オリックス・内藤鵬【写真:荒川祐史】
オリックス・内藤鵬【写真:荒川祐史】

高卒2年目を迎えるオリ内藤鵬…大怪我乗り越え目指すレギュラー獲り

 高卒2年目の未完の大器は今シーズン、一気にブレークを狙う。「周りはキャンプで仕上げてくると思いますが、僕は初日から結果も内容も求める」。誰よりも強い思いで自主トレーニングを続けているのが、オリックスの内藤鵬内野手。大怪我を乗り越えた男は、“第2の故郷”を勇気づけるため必死にバットを振り続けている。

 内藤は2022年ドラフト2位で日本航空石川高からオリックスに入団。高校通算53本塁打、スイングスピードは160キロを超え、右の長距離砲として大きな期待を背負っていた。チームには珍しい“ぽっちゃり体形”の大型野手。昨年の春季キャンプではB班スタートも、すぐさまA班に抜擢され練習試合、紅白戦でアピールに成功。オープン戦にも8試合に出場し結果を残した。

「最初はプロのレベルの高さを凄く感じました。真っすぐも変化球もキレが違う。本当に必死でがむしゃら。結果が残っているのは自信にはなりましたが、ずっとうまくはいかないだろうとは思っていました」

 開幕1軍は逃したが、チームは将来の4番候補としてウエスタン・リーグでもクリーンアップを任せ、経験を積ませた。だが、5月5日の阪神戦(甲子園)で走塁中に左膝を負傷。「左膝外側半月板損傷」の手術を受け、約半年のリハビリを経て、フェニックス・リーグで実戦復帰を果たした。

 ルーキーイヤーは最高のスタートを切りながら、試合中の大怪我で約半年間を棒に振る“ジェットコースター”のような1年。だが、内藤はこの期間を「本当に良かった。自分を見つめ直すことができて。まだ、当時は考えが子どもで……。すぐに復帰したくて一度、判断を間違ってしまった」と、反省を口にする。

西武・中村剛也、中日・中田翔も同じ手術を経験「少しでも近づきたい」

 左膝を怪我し病院に向かうと、医師からは2種類の手術を提案された。半月板を取り3か月で復帰できるものと、損傷した半月板を縫い付け6か月で復帰できるもの。前者は最短復帰は可能だが、再発すれば復帰は極めて困難。後者は時間は要とするが再発のリスクは最小限に抑えられる。

 周囲の期待や、打撃も手応えを感じ始めていただけに「3か月でお願いしたい」と、早期復帰を譲らなかった。だが、焦る自分を抑えてくれたのは福良淳一GMだった。怪我直後に舞洲でばったり出会うと「膝はどうや? 焦らんでいい。完全に治してこい。心配はいらない」と優しく言葉をかけてくれたという。

 プロ入り前から目標の打者として名前を挙げていた西武・中村剛也、中日・中田翔も若い時期に同じ手術を受けているのも心の支えになっていた。「お2人も大怪我を乗り越え、今も活躍している。めげずにリハビリを頑張って少しでも近づきたい」。手術後の2、3か月は松葉杖と車いす生活。人と会うのはトレーナーに患部の状態を確認してもらう30分だけ。それでも、希望を持ち続けながら孤独な日々を耐え抜いた。

 ようやく練習を再開し、フェニックス・リーグで実戦復帰を果たしたが、厳しい現実が待っていた。「どうやってバットを振っていたか、構えていたか忘れていた。感覚がぐちゃぐちゃで。映像を見ても『何、このスイング』。また打てるようになるのかなって……」。不安を拭えぬままオフシーズンに突入していた。

絶望から抜けだした地元・愛知でのフリー打撃「気持ちが楽になっていた」

 再び手応えを掴んだのは昨年12月。実家の愛知県に帰省し、同級生の仲間と自主練習に励んでいた時だった。リラックスしフリー打撃をした際に「昔からの仲間がいて気持ちが楽になっていた。力を抜いてバットを振ると『あ、怪我する前はこの感じで打っていた』と思い出しました」と、好調だった時の感覚を取り戻した。

 今年1月1日には日本航空石川時代を過ごした“第2の故郷”が、能登半島地震で被災した。選抜大会出場を決めた硬式野球部の3年生は内藤が所属していた時の1年生。「一緒に練習もして、知っている子ばかり。被災して一番、つらい思いをしている。僕が活躍する姿を見せて勇気づけたい」と、自身が“希望の光”になることを誓った。

 2年目のキャンプに向け準備は万端だ。チームには三塁に3年連続でゴールデン・グラブ賞に輝いている宗佑磨内野手が君臨しているが「三塁で勝負したい」ときっぱり。大怪我を経て、精神的にも強くなった19歳の大砲候補。被災地の思いも胸に、レギュラー獲得へ全身全霊で挑む。

○著者プロフィール
橋本健吾(はしもと・けんご)
1984年6月、兵庫県生まれ。報徳学園時代は「2番・左翼」として2002年選抜大会優勝を経験。立命大では準硬式野球部に入り主将、4年時には日本代表に選出される。製薬会社を経て報知新聞社に入社しアマ野球、オリックス、阪神を担当。2018年からFull-Countに所属。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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