練習は「やり過ぎない」 田嶋大樹がたどり着いた“答え”…孤独で発見した「8割の力」

オリックス・田嶋大樹【写真:北野正樹】
オリックス・田嶋大樹【写真:北野正樹】

オリックス・田嶋大樹が挑むプロ7年目は「違う方法を考えてみよう」

 自分と向き合う時間が、新しい生き方を見つけさせてくれた。オリックスの田嶋大樹投手は昨季、13試合に登板して6勝4敗、防御率3.09の成績だった。先発ローテーションを守るようになったプロ3年目以降、初めて登板数が20試合を切った。

 それでも田嶋は「個人的に1番充実して収穫があった年でした」と明るい表情で振り返る。左前腕部の張りや新型コロナウイルスに感染したため、長く戦列を離れた。復帰を目指した2軍戦では、球速、球威ともに欠き、調子がなかなか上がらなかった。

「コロナに罹患したのが大きかったですね。トレーニングが全くできず、さらに1か月後には1軍昇格に合わせる必要があった。1軍に上がったら、また熱を出してしまって大変でした」

 登板数は少なくなってしまったが、得たものは大きかった。「ずっと家にひとりで居て、自分を見つめ直し、自分のことを深く知ることができました。考え方が変わったということですね。『その考え方があったのか』とひらめいたんです」。例えば練習量は「やり過ぎないというか、常に8割くらいを意識するようにしました」という。

「さかのぼってここ3年は、とにかく量をこなしたんです。その結果、別に良くもないし悪くもない。(その間)突き抜ける成績でもなかったから、じゃあ違う方法を考えてみようと、新しい情報を取り入れ過去も振り返りながら、次はこんな感じでやってみようかなと」

 ストイックに自分を追い込むタイプだ。春季宮崎キャンプの自主練習時間には、サブグラウンドを黙々と走る。シーズン中も真っ先にグラウンドに姿を現し、体をほぐす姿があった。「自分の思う8割くらい(の力)でやっていれば。多分、周りを見て10割くらい(の力で)やっているのが僕なので。勝手にやっちゃうんですね。自分の中で頑張ると、頑張り過ぎちゃうんです。だから、8割くらい(の力)が、客観的に見てちょうどいいかもしれないかなと思ったんです」。1人の時間が、自分自身を俯瞰して眺めるきっかけになった。

「お金イコール幸せじゃないし、成績イコール幸せでもありません」

 今オフも「8割」の力でトレーニングを積んでおり「シーズン中も8割を目指します」と宣言する。意識を変えた「8割」は、理にかなっているようだ。「腹8分」とは、満腹手前の8割程度に食事量を抑えることで摂取エネルギー量が減り、体脂肪や中性脂肪の量も減少することから、体によい効果が期待できる食習慣といわれる。

 さらに、全力で頑張りすぎている人の脳内は、車で例えるとアクセルを踏みっぱなしの状態で、過剰なドーパミン分泌はストレスを誘引してしまう。そこで「8割」を目指すことで脳内のバランスが取れることもあるという。

「僕は、お金イコール幸せじゃないし、成績イコール幸せでもありません。普通に、健康で思い切り野球をやらせてもらっている環境と、自分の体に感謝するというのが基礎にあるから、成績が下がろうが、給料が下がろうが、僕のメンタルに支障はないのです」

 淡々と考えを述べる田嶋は数字を追わない。その理由は「全部ダメになる。狙うと僕はよくないんです」。最後に、ファンにどんな姿を見せたいのかを尋ねると「考えたこともありません。『こういう姿を見せたい』と嘘をつくのが嫌なんです。考えたこともないのが本心なので。僕の元気な姿を見てくれたらいいです」。全ての方向に、誠実に向き合う。

〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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