急増する“由伸似”の投球フォーム「間違えてほしくない」 本人が口をつぐんだ深い理由

ドジャース・山本由伸【写真:Getty Images】
ドジャース・山本由伸【写真:Getty Images】

山本由伸があえて答えなかった質問「真似ばかりしてしまうと…」

 独特の投球フォームを見て、思わず質問を投げかけた。昨年の2月中旬、ブルペン投球で調整する山本由伸投手が、左足を高く上げなくなっていた。地面から数10センチの高さで左足を移動させて踏み込み、ボールを投げる。投手主要タイトルを総なめし、沢村賞に輝いた投手が、どうして投球フォームを変える必要があるのか――。率直にぶつけた質問には満面の笑みが返ってきた。

「絶対に秘密です(笑)。僕は言いませんよ」

 今オフにポスティングシステムを利用し、ドジャースに移籍。夢だったメジャーの舞台にたどり着いた山本が“あえて”答えなかったクエスチョンには、深い理由があった。

「毎年、いや、毎日どうすれば野球がうまくなるのか考えて工夫しています。この(投球)フォームも、まずは試している段階です。うまく行けばそのまま続けるだろうし、しっくりこなかったらまた変化させるかもしれません」

 ニッコリと白い歯を見せたエースから、意図が聞きたくなった。「左足をすっと踏み出す理由? それは……言いませんよ(笑)」。答えは数秒前と同じだった。ただ、オリックス在籍時、どんなに柔らかい質問にも丁寧に対応してくれた25歳。当然、そこには根拠があった。

「将来、僕の真似をしてくれる投手が増えるかもしれません。野球を楽しんでいる少年少女が真似ばかりしてしまうと、意図もわからず練習をしてしまうからです。少ない情報を鵜呑みにして、方向性を間違えてほしくないんです。口で説明するのは難しいですから」

 飛び出した言葉に重みがあり、頷くしかなかった。「自分に合う練習、投げ方を見つけてもらいたいんです」。コメント力のある山本が、わざとコメントしない理由は、深かった。

 球春到来。各地のキャンプ地では“由伸似”の投球フォームが急増。中日・高橋宏斗投手、日本ハム北山亘基投手らを筆頭に、新フォームに挑戦する投手が増えている。近々、海を渡る山本が残した“金言”。言葉の選び方にも、行動にも、確固たる信念がある。

(真柴健 / Ken Mashiba)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY