10歳以上年下でも「さん」づけで呼ぶ理由 尊敬のあまり…3連覇導いた厚澤コーチの工夫

オリックス・厚澤和幸投手コーチ【写真:北野正樹】
オリックス・厚澤和幸投手コーチ【写真:北野正樹】

オリックス・厚澤投手コーチ「あの2人を、僕はリスペクトしています」

 球歴や年齢を超えた世界がそこにはある。オリックスの厚澤和幸投手コーチは、メディアなど外部の人と話す際、チームのベテランリリーバーである比嘉幹貴投手と平野佳寿投手を「さん」づけで呼ぶ。コーチが10歳以上も離れた選手に敬称をつける理由とは――。

「あの2人を、僕はリスペクトしていますから」。当然という表情で厚澤コーチは「さん」づけの理由を説明した。51歳の厚澤コーチに対して、比嘉は41歳。平野は3月で40歳を迎える。球歴で言えば比嘉はプロ生活14年、平野佳は17年だ。

 厚澤コーチは、埼玉・大宮工業高から国士舘大を経て、1994年ドラフト2位で日本ハムに入団した。現役引退後もほとんどの期間を指導者として現場に携わり、30年近くプロ野球の世界を生き抜いてきた。比嘉、平野佳の倍とも捉えられる。

 入団年や年齢で先輩、後輩の秩序が保たれているプロ野球の世界。しかも、指導者の厚澤コーチがなぜ、選手に「さん」をつけるのだろうか。

 答えは明確だった。「2人の立ち居振る舞いが、他の選手の見本になっていると思うので、僕は『さん』をつけさせてもらっています」。コザ高から国際武道大、日立製作所を経て2010年にドラフト2位で入団した比嘉は、リリーフとして通算413試合に登板し、26勝11敗3セーブ、93ホールド、防御率2.68。2014年には62試合に登板、防御率0.79でチームの2位躍進に貢献し、今も緊急登板も含めて中継ぎ陣を引っ張る。

 一方の平野佳は、京都・鳥羽高から京都産業大を経て、2005年大学生・社会人ドラフト希望枠で入団後、先発を経験して抑えに転向。メジャーにも挑戦し、ダイヤモンドバックスなどで活躍。オリックスに復帰後、史上初の日米通算200セーブ&200ホールド、史上4人目の日米通算250セーブを達成して、名球会入りを果たした。

オリックス・平野佳寿(左)と比嘉幹貴【写真:荒川祐史、小林靖】
オリックス・平野佳寿(左)と比嘉幹貴【写真:荒川祐史、小林靖】

平野佳寿は謙遜「そこまで気を遣っていただかなくても…」

 2人はともに実績を誇るが、厚澤コーチは練習に取り組む姿勢や後輩へのアドバイスなど、数字ではない部分を評価しているという。確かに、比嘉と平野佳が後輩たちに与えている影響は大きい。経験の少ない若手投手陣に「マウンドに上がるまでの準備が大事」と不断の努力の大切さを助言している。

 救援失敗した投手には「次があるから、前を向こう」と声を掛け、フォークを武器とする阿部翔太投手にはロッカーで「将来、フォークだけでは行き詰まることがあるから」と投球の幅を広げる重要性を説くなど、コーチの目が届かない部分を献身的にサポートしてきた。さらに阿部は言う。「比嘉さんは、明日から2軍落ちだと知らされていても、いつもと変わらぬ態度で練習に取り組み、手を抜くことはありません。そんなところも本当に尊敬できます」と語る。

 育成契約5年目の佐藤一磨投手は「実力だけではなく、比嘉さんや平野さんのように人間力に優れた方が、チーム内で尊敬されファンにも愛され、プロ野球で活躍されるんだということがわかります」と、2人の姿を目標にしている。

 コーチから「さん」づけで呼ばれていることについて平野佳は「厚澤さんは、いつもすごく丁寧に話をしてくださるので、嬉しいですね。そこまで気を遣っていただかなくてもいいな、と思いますけどね(笑)」とニコリと話す。

 比嘉は「僕は、監督やコーチの方からは『ニーニー』と呼ばれていますが、(外部の人向けに「さん」をつけて呼んでもらえるのは)嬉しいですね。厚澤コーチが『平野さん』と呼ぶのは、キャラ的にもそうですし、『平野さん』っぽいじゃないですか(笑)。呼ばれた本人もしっくりときていますし、やっぱり空気感ですね」。厚澤コーチの言葉は、チームに漂う一体感が表れていると見ている。

「比嘉さん、平野さんは実績から言って『絶対的リリーフ』ですから、リリーフ専門としてリスペクトしています。僕の中では『平野さん』が(呼び捨ての)『平野』みたいなもんなんですよ」と笑顔で語る厚澤コーチ。2人で約300イニングを投げた山本由伸投手、山崎福也投手がチームを去ったが「勝ち負けの星勘定は全く心配していません。先発を始め、イニングを投げられる人数を確保しなくてはいけません。そこは、腕の見せ所ですね」。今季も平井正史投手コーチとともに投手陣を束ね、さらなる投手王国を作り上げてくれるはずだ。

◯北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY