金属バット拒否に滲む「プライド」 柵越え0でも…松井秀喜氏が打撃披露するワケ
松井秀喜氏は野球教室を開催…子どもたちにフリー打撃を披露した
巨人宮崎キャンプで臨時コーチを務めている松井秀喜氏(ヤンキースGM付特別アドバイザー)は11日、ひなたサンマリンスタジアム宮崎で「Matsui 55 Baseball Foundation」による野球教室を開催。日本国内では9回目、米国を合わせると29回目の開催で、小学生の男女31人が参加した。今年6月12日に50歳となる松井氏は「年々、歳を実感しています」とこぼすが、それでもフリー打撃披露に懸ける思いはまだまだ熱かった。
松井氏はまず、子どもたちのフリー打撃の投手役として、31人に対し1人10球ずつ、ボール球を含めて320球以上を熱投した。
そして、自身のフリー打撃を披露した。昨年11月に東京都八王子市で野球教室を開いた際には、初めて柵越え「0」に終わり、「今日はとうとう私がホームランを打てなくなった記念すべき日です」「次回からは金属バットにするか……」と嘆いた経緯があった。
この日は、両翼100メートルのサンマリンスタジアムに、左打者の松井氏にとって“逆風”となる右から左への風が強烈に吹き付けていた。「私は2月の宮崎を知り尽くしています。『寒くて風が吹く時は、外でバッティングをするな』という格言があるくらい、ライト方向の打球は飛ばないのですよ」と、最初から暗雲が垂れ込めていたが、木製バットを手にして立ち向かった。
案の定、風の影響は大きく、「行った」と思われた打球もフェンス際で失速する。結局24スイングして、またもや“屈辱”のノーアーチに終わってしまった。「ひむかスタジアム(巨人2軍の練習場で、両翼92メートル)なら、防風ネットがありますし、しかも、だいぶ狭い。あそこだったら1本くらい入ったのではないか」と苦笑まじりに“言い訳”した。
「バットとボールが当たる音で感じてほしい」
それでも「(柵越えを)見せられなかったのはちょっと残念ですが、(子どもたちに)なんとなく遠くまで飛んでいることを、バットとボールが当たる音で感じてもらって、楽しんでもらえたらうれしいです。野球少年、野球少女と触れ合うと、私自身エネルギーをもらえますし、楽しいです」と表情は明るい。
昨年と比べると、打撃内容は良かった。「今回は打撃投手がきれいな回転で、ちょうどいいスピードの球を投げてくれました。八王子では、少し速く投げてほしいという要望を伝えられていなかった。自分自身を過信していました」と振り返った。
日米通算507本塁打をマークしたスイングを子どもたちの目の前で見せることには、まだまだ価値があると感じている様子。そして「金属バットを使う気はなかった?」と聞くと、「まだそこまでプライドを捨てられないかな」と笑い、「この風では、金属で打ったとしても(柵越えしたかどうか)怪しかったけれどね」と付け加えた。
恥をかくリスクがあったとしても、自分が挑むべきことには真正面から取り組む──その姿勢こそ、松井氏が子どもたちに伝えたかったものかもしれない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)