「あとで覚えてろよ」宿敵ヤジり倒し甲子園切符 中継で発覚…審判に怒られた最後の夏

元阪神、中日の久慈照嘉氏【写真:山口真司】
元阪神、中日の久慈照嘉氏【写真:山口真司】

久慈照嘉氏の東海大甲府は2年春から3年夏まで山梨大会で負け知らず

 最後の夏は宿命のライバルを“揺さぶり作戦”で打ち崩した。元阪神、中日内野手の久慈照嘉氏は、東海大甲府(山梨)で1985年の1年秋からレギュラーの座をつかんだ。1986年の2年春から1987年の3年夏まで山梨大会では負け知らず。2年夏は、この年の巨人ドラフト1位右腕の日大明誠・木田優夫投手を決勝で撃破し、3年夏決勝は小学校時代からの好敵手で、のちの阪神ドラフト1位右腕、甲府工・中込伸投手を攻略して甲子園切符を手に入れた。

 1985年の夏の甲子園で、東海大甲府は準決勝で宇部商(山口)に6-7でサヨナラ負け。その大会をスタンドで応援した久慈氏は新チームからレギュラーとなった。1年秋の山梨大会は準決勝で甲府商に3-7で敗れ、山梨3位で出場した関東大会は1回戦で宇都宮南(栃木)に6-9で敗退。1986年選抜大会の夢は絶たれた。「(宇都宮南の)高村(祐)にやられました。ゆくゆくは僕がセ・リーグ、彼がパ・リーグの新人王(1992年)になったんですけどね」。

 これも何かの巡り合わせだろうか。宇都宮南は1986年選抜大会で準優勝。エース・高村は法政大に進学し、1991年ドラフト会議で近鉄に1位指名されてプロ入りした。久慈氏は日本石油(現ENEOS)から、同年ドラフト2位で阪神に入団。ともにプロ1年目から活躍してセ・パの新人王になったが、2人はその7年前に対決していたわけだ。

 東海大甲府はそこから山梨大会で“無敵状態”に突入した。久慈氏が高校2年の1986年は春の山梨大会に優勝、夏も決勝でエース・木田を擁する日大明誠を8-4で下した。7回を終わって2-4だったが、8回に一挙6点の逆転勝ちだった。「あの試合は途中危なかったです。1学年上の木田さんはとんでもなかったですからね。でかいし速いし、当時一番速かったんじゃないですか。6点取ったのは僕らの意地でしたね。ウチは打って打って打ちまくれのチーム。そのためにどれだけ振り込んできたかっていうところでね」。

 2年夏の甲子園は1回戦で福井商に6-3で勝利したが、2回戦で享栄(愛知)に1-2で敗れた。享栄のエースは、その年の中日ドラフト1位左腕・近藤真一投手。6回に東海大甲府が1点を先制したが、7回に追いつかれ、8回に勝ち越された。「あの試合で僕がスクイズを失敗したんですよねぇ……。そりゃあ、あれだけ球が速いとね。サードフライになってしまって……」と唇をかんだ。

「でもね、僕は初回に近藤さんからレフト前ヒットを打ったんですよ」とも話す。近藤はプロ1年目の1987年8月9日の巨人戦(ナゴヤ球場)で“初登板ノーヒットノーラン”を成し遂げた。それだけに久慈氏は「自慢していました。俺、あのピッチャーから打っているぞってね」。この享栄戦での負けを糧にして、2年秋の山梨大会を制覇。関東大会では、山梨2位でエース・中込を擁する甲府工に敗れたものの、東海大甲府としては初出場となる選抜切符もつかんだ。

高3夏の決勝は中込を打ち崩して優勝…春夏連続で甲子園に出場した

 高校3年の1987年選抜大会は準決勝まで勝ち進み、PL学園に延長14回5-8で敗れた。今度はその悔しさもバネして、春の山梨大会で優勝。最後の夏は決勝で甲府工に15-7で勝ち、甲子園春夏連続出場を勝ち取った。この試合は6回に4点、7回には大量9点と、中込に17安打を浴びせて7回途中でKOしての勝利だった。

 東海大甲府・大八木治監督の指示による作戦勝ちでもあったという。「中込は短気なんで、とにかくやじり倒したんです。ベンチからもバッターボックスからもね。打席で『真っ直ぐを投げろ』みたいなことを言ったりしてね。狙い通り、あいつは『あとで覚えてろよ』みたいなことを言って、カッカしてマウンドから降りてきてボールを捕りだしたので、監督はよっしゃ、これでOKって。心理的な揺さぶりをかけるなんて監督はさすがだなと思いましたよ」。

 もちろん、それくらいしないと中込攻略は難しいとの判断があってのこと。「技術だけなら向こうが絶対上なんで、何か中込に弱みはないかってなったんですけどね。地元のテレビに(打者と中込の)やり取りの声まで入っていたくらいで、審判にウチの学校は後々怒られたみたいな……。今は許されません。全部駄目なことですけどね」。

 最後の夏の甲子園は初戦の2回戦で佐賀工に1-2で敗れた。本格派右腕・江口孝義投手(元ダイエー)を攻略できず、久慈氏の高校野球は幕を閉じた。「負けた時は大泣きしたと思いますが、次の日はケロっとしていましたよ。やっと終わった。やっと解放されるみたいなね」。甲子園では悔しい負けが続いたが、精一杯やったとの思いもあったのだろう。高村、木田、近藤、中込……。ハイレベルな投手との対戦経験が久慈氏を成長させたのも間違いない。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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