「ドラ6でよかった」下位指名から“下剋上” 開幕投手→メジャーへ…戸郷翔征の決意

巨人・戸郷翔征【写真:矢口亨】
巨人・戸郷翔征【写真:矢口亨】

昨年のWBCで第2先発として優勝に貢献「プロに入ってから夢でした」

 巨人の球団創設90周年に当たる今年、自身初の開幕投手を務める戸郷翔征投手へのインタビュー第2回。巨人の新エースとしての働きはもちろん、昨年3月の第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で侍ジャパンの優勝に貢献した戸郷には、今年11月の「ラグザスpresents 第3回WBSCプレミア12」で先発の軸としての役割が期待される。

 昨年のWBCでの経験は、戸郷にとって大きな刺激となった。「プロに入ってから、あそこが1つの夢でした。(2019年11月の)第2回プレミア12、(2021年夏の)東京オリンピックではメンバーに選ばれず、悔しい思いをしましたから」と胸の内を明かす。

 19歳のルーキーイヤーで、シーズン2試合1勝0敗に終わった2019年はともかく、巨人の先発ローテーションの軸として前半だけで8勝(4敗)を稼いでいた2021年の東京五輪で、侍ジャパンのメンバーに選出されなかったのはショックだった。それほど、日の丸を背負うことへの思いは強かった。

 念願のWBCでは、先発が早い回に降板した場合に、2番手としてリリーフ陣につなぐまでの2、3イニングを担う「第2先発」の役割を任された。2試合で計5イニングを投げ1失点、防御率1.80。圧巻は米国との決勝戦で、先発の現カブス・今永昇太投手が2回1失点で降板した後、1点リードの3回から登板すると、先頭のマイク・トラウト外野手(エンゼルス)にフォークを振らせて三振に仕留めたのをはじめ、2回無安打2四球無失点に抑え、試合の流れを引き寄せた。

 戸郷にとって最大の収穫は「決勝で投げたことではないでしょうか。そして、もう1つ挙げるなら、ダルビッシュ(有投手=パドレス)さん、大谷(翔平投手=現ドジャース)さんら、メジャーの選手と会話ができたことがすごく大きかったと思います」と語る。

 ダルビッシュからは、曲がりの大きいスライダーを伝授された。「シーズンでも大きな武器になりましたが、ボールの違いで、(WBCで採用された)メジャー使用球の方が変化球の曲がりが大きかったり、真っすぐのホップ成分は日本のボールの方が高かったりと、いろいろ良し悪しがありました。メジャーのボールでの感覚を今後、日本のボールで慣らしていければと思います」と説明する。

巨人・戸郷翔征【写真:宮脇広久】
巨人・戸郷翔征【写真:宮脇広久】

メジャーへの思い「憧れではありますが、日本にいるうちに活躍しなければ」

 メジャーリーガーが出場しない今年11月の第3回プレミア12では、侍ジャパンでも本格的に「先発」の役割を任される可能性が高い。「もちろん(今季)ある程度成績を残さないと、先発は回ってこないと思いますが、そこが僕の本職ですし、長いイニングを投げ、1人の打者と何度か対戦できることで、自分のいいところを出せるのではないかと思います」と前向きである。

 その先には、将来的なメジャー挑戦への思いもある。「憧れではありますが、日本にいるうちにもっともっと活躍しなければ行けないと思っています」と声を張った。

 日本を代表する投手の1人に成長しつつある戸郷だが、プロ入りは2018年のドラフト6位。同年の巨人で最下位指名(育成は除く)だった。「千賀(滉大投手=メッツ)さん、甲斐(拓也捕手=ソフトバンク)さんのように、育成で入ってきて活躍されている人もたくさんいる。僕も『順位は関係ない』ということを見せられているのかなと思います」と笑みを浮かべる。

 そして「逆に6位でよかったなと思います」とも。「(入団当初に)ドラフト1位の人たちよりチャンスが少ないのは確かですが、結果さえ残せば、何位であっても変わらない。結局やるか、やらないかの世界です。ジャイアンツの1位となれば、すごいプレッシャーを受けることになりますが、僕の場合は(チャンスの少ない)瀬戸際の切羽詰まった気持ちでプレーできたことがよかったのだと思います」とうなずく。

野球人生を変えた壮行試合先発「この人たちを抑えたらプロに行ける」

 2017年の夏には、宮崎・聖心ウルスラ学園高の2年生エースとして甲子園出場を果たし、2回戦まで進出したが、翌年の夏は県大会準々決勝で敗退。野球人生を大きく変えたのは同年8月、宮崎県選抜チームの先発として、「BAF U-18アジア選手権」野球日本代表と対戦した壮行試合だった。

 大阪桐蔭高・根尾昂内野手(現中日)、同・藤原恭大外野手(現ロッテ)、報徳学園高・小園海斗内野手(現広島)ら、甲子園で活躍した侍ジャパン高校日本代表の面々を相手に、5回1/3、9奪三振の快投を演じ、プロの評価は急上昇したのだった。

「もともと全球団のスカウトが来ることは知っていましたし、僕もプロを目指していたので、この人たちを抑えたらプロに行ける、最後のアピールのチャンスだと思って投げました」。簡単には諦めない執念、明確な目標設定、ワンチャンスを生かす勝負強さがモノを言った。

 巨人の歴代開幕投手は、球団最多の通算8度を誇る菅野智之投手、上原浩治氏、桑田真澄氏、斎藤雅樹氏、槙原寛己氏、江川卓氏ら、ドラフト1位入団が多数派だ。しかし中には、ドラフト外入団で4度務めた西本聖氏や戸郷のような例もある。下位指名からエースの座に這い上がり、さらに高みを目指す姿が、次世代を担う野球少年たちへ勇気を与える。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY