飛距離“激減”「10mくらい違う」 新基準バットに現場悲鳴…スカウトも「打球速度遅い」

“飛ばない”低反発のバットに悲鳴の声が上がっている
“飛ばない”低反発のバットに悲鳴の声が上がっている

「芯でとらえると飛ぶ」「低いライナーは影響ない」との声も

 第96回選抜高校野球大会が18日、甲子園球場で開幕。高校野球には今年から“飛ばない”低反発のバットが導入されているが、初の全国大会でのお披露目に現場からは「影響は予想以上」と“悲鳴”があがった。

「これはホームランやな、と思った打球ほど失速します。(飛距離が)10メートルくらい違うのではないかと思います」と述懐したのは、21世紀枠で実に76年ぶり3度目の選抜出場を果たし、大会初日の第2試合で優勝候補の星稜(石川)と対戦した田辺(和歌山)の田中格監督である。

 守備では内野陣に「今まで(野手の間を)抜けていたゴロが抜けないかもしれないから、一生懸命追わないといけない」と指示。ただし、「たまに芯でとらえた打球はパーンと飛ぶことがある。そこだけは気をつけておかないといけない」と付け加えた。

 その田中監督は試合前、「ウチが勝てるとすれば、1-0のスコアだけ」とゲームプランを明かしていた。「この金属バットになってから練習試合を重ねてきて、選手たちも点は取れない、その代わり、しっかりピッチャーが投げて、しっかり守れば点を取られることもないと、みんながわかっています」と説明した。

 実際には、チームは田中監督の予想とは少し違い、3回と4回に1点を奪い、強豪を向こうに回して2-2の同点で9回に突入。1死二、三塁のピンチを招き、星稜の代打・東汰生選手(3年)に決勝2点適時打を浴び惜敗した。ロースコアの展開に持ち込んだとことが、大善戦の要因だった。

 一方の星稜は9回、勝ち越した後の2死一塁から、中谷羽玖内野手(3年)がセンター後方へ大飛球を放ったが、中堅手のランニングキャッチに阻まれた。打った中谷は「自分としては(中堅手の頭上を)越えたかなと思いながら走っていました」と首をひねることしきり。「やはり打球があそこまで上がると、失速します。昨年の冬場から新基準のバットを導入して練習してきましたが、芯でとらえて高く上がった打球は(飛距離がこれまでの)80%くらいだと思います」と語る。一方で「低いライナーの場合は、それほど影響がありません」と証言した。

プロのスカウトも「打球速度が遅い気がした」

 高校野球の金属バットが低反発となった狙いは、打者の至近距離にいる投手をはじめ、守備側の選手が強烈な打球を受けて怪我をするのを防ぐことにある。バットの最大直径を従来より3ミリ短い64ミリに縮小し、球が当たる部分は3ミリから4ミリ以上へと厚くすることで反発を抑えた。

 この日は第1試合も、八戸学院光星(青森)と関東一(東京)が2-2のままタイブレークの延長戦に突入。10回は両チームとも、無死一、二塁から始まる攻撃を生かせず無得点に終わった。最終的には八戸学院光星が11回に敵失も絡んで3点を奪い、振り切った。詰まって内野と外野の間に飛ぶ小飛球が目立った。

 第3試合の熊本国府と近江(滋賀)の対戦も、2-2のロースコアで延長戦となり、熊本国府が10回、1死満塁の好機に相手投手の暴投でサヨナラ勝ち。結局3試合を通じてノーアーチに終わったのだった。

 ネット裏席には、大勢のプロのスカウトの姿もあった。日本ハムの大渕隆GM補佐兼スカウト部長は「飛ばないというより、打球速度が遅い気はしました。本当に飛ばないのか、バットの芯を外した打者が多かっただけなのか、1日見ただけでは、はっきりわかりませんが……」と感想を述べた。

 ひょっとして、低反発バットとなったことによって、スカウトの評価のしかたも変わるのだろうか? DeNAの河野亮アマスカウトは「打球が飛びにくいのは確かだと思います」とした上で、「われわれは飛距離ではなく、打ち方を見ているので、そういうことはありません」と首を横に振った。

 いずれにせよ、球児たちが低反発バットに慣れ、使いこなせるようになるには、もう少し時間が必要のようだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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