髪型自由に「まだ偏見がある」 “脱・丸刈り対決”…ナインたちの思い「僕らが見本に」

耐久は中央学院に1-7で敗れた
耐久は中央学院に1-7で敗れた

強風、寒さ、雨、エースが死球受け降板の逆境

 第96回選抜高校野球大会は20日、1905年の野球部創部以来、春夏を通じて初の甲子園出場を果たした耐久(和歌山)と、6年ぶり2度目の出場の中央学院(千葉)が1回戦で対戦。いまや珍しくなくなってきた“脱・丸刈り”同士のマッチアップとなった。結果は中央学院が7-1で圧勝したが、敗れた耐久ナインも「楽しかった」と口をそろえた。

 両チームにとって、気の毒な条件下で行われた試合だった。終始上空に強烈な風が吹き、しかも刻々向きを変えた。耐久の先発マスクをかぶった川合晶翔捕手(3年)は「上空とグラウンド上では風向きが全然違うので、ずっとスコアボードの旗を見ていないといけませんでした」と肩をすくめた。まるで真冬のように冷え込み、試合中たびたび、横殴りの細かい雨にまで見舞われた。

 さらに、耐久で昨秋の公式戦全9試合を完投(うち2試合は完封)していた絶対的エース・冷水(しみず)孝輔投手(3年)は、7回の打席で右肘に死球を受けるアクシデント。その裏の1イニングは続投したものの球威が戻らず、8回には捕手の川合が緊急登板し、なんとか3者凡退に抑えて意地を見せた。

 想像を絶するドタバタ劇だったわけだが、それでも耐久の「3番・遊撃」としてフル出場した沢剣太郎内野手(3年)は「そんなことよりも、甲子園という場、周りの応援が楽しかったです」と笑みを浮かべた。

 主将の赤山侑斗内野手(3年)も開口一番「楽しかった」と吐露。「大舞台を楽しめたのは収穫だと思います。9回の攻撃で代打が2人出て、全員でしっかり声を出して盛り上がれたのはよかった」と説明し、一方で「それはそれとして、攻守に消極的になってしまったのは反省点。夏にやり返したい気持ちにもなりました」と付け加えた。

 落ち込む様子のない選手たちを横目に、井原正善監督は「いまの子たちって、良くも悪くも普段通りと言いますか、(緊張とは無縁で)無頓着なところがありますね」と苦笑していた。

「毎年夏が来て暑くなると丸刈りが増えます」

 耐久は2021年から、髪形を自由にしている。野球の競技人口の減少に歯止めがかからない中、「丸刈りの強制が嫌で、野球をやめてしまう子がかなり多い」との声を耳にしたことがきっかけだった。

 一方、相手の中央学院も2022年から髪形を“自由化”。相馬幸樹監督は「丸刈りがダメと言うつもりはありませんが、選手にもっと選択肢があっていい」と真意を説明し、「千葉の強豪校がみんな丸刈りだったので、以前から最初にやりたいとは思っていました」と語っている。

 実はこの日、中央学院には丸刈りの選手が見当たらなかったが、耐久は約半数が丸刈りだった。少し髪を伸ばしている前出の沢は「年明けに丸刈りが2~3人増えました。毎年、夏が来て暑くなると増えます。今年もこれから増えると思いますよ」と笑う。丸刈りを禁止しようというのではない。選手1人1人が、気分よく野球ができるように、好きな髪形にすればいいだけだ。

 沢は「髪を伸ばしているとまだ、偏見を持たれることがあります。僕らが見本になっていかないといけない。野球への思いと髪形は別だと思います」と力説した。

 23歳の耐久・小松優斗コーチは「私が高校生だった5年前は、まだ周りはみんな丸刈りでした。この5年で急に増えた印象です」と少し戸惑い気味だが、「子どもらが、やりたいように野球をやれる時代になったのだと思います」ととらえている。耐久ナインを見ていると、みんなで野球を楽しむ和気あいあいとしたムードと髪形の自由が、どこかでつながっている気がする。小松コーチも「それはあると思います」とうなずいた。

 昨年の夏、慶応(神奈川)が髪をなびかせて全国制覇を成し遂げ、全国的なブームを巻き起こした。見ている方が蒸し暑くなるような“ロン毛”となれば考え物だが、髪形自由化の傾向はもう止まりそうにない。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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