山本由伸から「野球が下手になるよ」 元オリ左腕が大切に保管する2足のスパイク

ドジャース・山本由伸(左)と元オリックス・辻垣高良【写真:荒川祐史、北野正樹】
ドジャース・山本由伸(左)と元オリックス・辻垣高良【写真:荒川祐史、北野正樹】

昨年までオリックスに在籍し、今年から社会人野球・三菱重工WESTでプレーする辻垣高良

 文字通り、足元を固める大切さを教えてもらった。昨年末にオリックスを自由契約となり、今年から社会人野球の三菱重工WESTでプレーする辻垣高良投手は、スパイクの「履き方」という基本を教えてくれた山本由伸投手(現ドジャース)に感謝する。

 辻垣は、オリックス時代の1年以上も前の出来事に「本当に、足元が疎かになっていました」と、頬を赤らめて当時を振り返った。2022年夏前の球団施設、舞洲でのこと。ランニングをしていると、次回登板までの調整のため訪れていた山本が、驚いたような表情で声を掛けた。

「そんなスパイクで、ちゃんと投げられるの?」

 神戸市出身。学法福島を経て2021年に育成ドラフト2位で入団した辻垣が履いていたのは、高校時代からのスパイク。育成契約では用具にかけるお金は限られていた以上に「どこも破れていませんでしたし、まだ使えました。スパイクは履けたらいいと思っていました」と、用具を大事にする気持ちがあった。

 だが、球界最高峰の投手の見解は違った。「こんなスパイクを使ってたら、野球が下手になるよ。いいよ、2足分」。好きなスポーツメーカーのスパイクをプレゼントしてくれる約束し、その場でスパイクの紐の結び方まで教えてくれた。

山本由伸「あんなスパイクを見ていたら、こっちまで野球が下手になりそう(笑)」

 山本はこの時のいきさつについて「あんなスパイクを見ていたら、こっちまで野球が下手になりそうだと思いましたよ(笑)。紐の結び方も緩かったので教えてあげました」と、笑顔で振り返る。

「結び方は同じなのですが、僕の結び方は根元が緩かったのです。『ぐっ、と締めないとダメだよ』ときつく締めるように教わりました。足元へのこだわりがなかったので、いいことを教えてもらいました」と辻垣。しっかりとスパイクを履くことで、足の裏で地面をつかむ感覚が生まれ、そのシーズン終了後に行われたフェニックス・リーグでは好投することができたという。

「やっぱり、足元が大事でした」と山本に報告すると、「黙れ(笑)」と返信があったそうだ。「足元にこだわる方でしたから、僕のスパイクや履き方が気になっていたんでしょうね」。短い返信に先輩の優しさを感じた瞬間だった。

 その後、山本からは「今、スパイクは大丈夫なの」と何度か声をかけてもらっていたが、再びお願いすることはなく自由契約になるまで1年以上、履き続けた。三菱重工WEST入りしてからも、そのスパイクを使い練習をしていたが、社会人のシーズン開幕を前に新しいものと取り換えた。

 メジャーに移籍した山本の動向は、ネット上のニュースなどでいつも見ている。「由伸さんなら、世界のトップでも活躍されると思います」。プロ最終年の夏場以降、取り組んでいたサイドスローはスリークオーターに戻し、社会人野球に活躍の場を移した辻垣。大切に保管する2足のスパイクを眺めながら、世界の舞台での山本の飛躍を願い、自らも足元を固めNPB復帰を果たすことで恩返しをする。

◯北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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