吉田正尚のぶれない心「アウトになってもいい」 鍵は“入射角”…徹底が導く進化【マイ・メジャー・ノート】
吉田正尚は開幕戦で初安打…153キロシンカーを右翼線に運んだ
■Rソックス6ー4 マリナーズ(日本時間29日・シアトル)
レッドソックスの吉田正尚外野手が28日(日本時間29日)、開幕戦となった敵地シアトルでのマリナーズ戦に「6番・DH」で出場し、第2打席で右翼線二塁打を放ち今季初安打を記録した。
今季は主に指名打者での役割を担うが、好機を拡大した初安打はその後の敵失による追加点を呼び込み、勝利に貢献。第1打席は左直、第3打席は一ゴロ、第4打席は遊飛で、4打数1安打だった。
試合後のクラブハウスで吉田は淡々と振り返った。「いつもどおりいい緊張感を持ちながら試合に臨めました」。気負うことなく立ち続けた4打席。快音を轟かせたのは4回1死一塁で迎えた第2打席だった。相手先発・カスティーヨから外寄りの95マイル(約153キロ)のシンカーを捉えると打球は右翼の右を抜きフェンスへと転がる二塁打となった。
1打席目は、その高速シンカーにタイミングが合わず、差し込まれた。このときの感覚がメジャー2年目の初安打につながっている。
「ポイントを前に出していきました」
オープン戦の中頃までは上半身と下半身の連動感にズレがあると言っていたが、凡打を次の打席にしっかりと生かせるほどに、一体感を得た4打席だった。その手応えを確かなものにしているのが、準備だ。
感じる手応え「自分の中ではストレスなくやれている」
試合前の打撃練習で力強い打球を飛ばしていたが、丁寧にバットを振っている印象が強い――。グリップエンドを体の中心前あたりに引き出し、バットのヘッドが体の近くできれいに抜ける形を崩さないよう、吉田は1球1球振っていく。ボールに力が最も強く伝わるそのスイングを徹底して繰り返していた。
あえて聞くと、吉田はきっちり言葉にした。
「練習では、バットの入射角というんですかね、そこもすごくいい感じで。自分の中では、ストレスなくやれているので。実戦になったら、またそれを(投手に)崩されるんすけど。練習ではそこをずっと徹底して繰り返していきたいなと思います」
よく言うところの「インサイドアウト」の徹底。大谷翔平が敬愛するアルバート・プホルスがこの技術を分かりやすく教えてくれたのを思い出す。「グリップエンドをボールの軌道に入れていくイメージでバットをぶつける感じ」。後ろの肘がしっかりと締まる理想的な形になるのが理解できる。
昨年、吉田は打率.289、15本塁打、72打点、OPS.783という数字を残した。7月下旬の時点で一時はア・リーグ首位打者争いのトップに立ち、前半戦ではルーキーながらオールスターに選ばれても不思議ではないほどの打撃を見せた。
しかし、後半戦で失速する。球宴以降は、62試合で打率.254、5本塁打と低調。もっと絞りこむと、昨年9月4日の時点で打率.298、OPS.821と勢いづくも、残り19試合で打率.229、OPS.525、0本塁打と急降下した。
○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。シアトル在住。【マイ・メジャー・ノート】はファクトを曇りなく自由闊達につづる。観察と考察の断片が織りなす、木崎英夫の大リーグコラム。
凡打でもいい内容でいければ(安打の)確率は上がってくる」
昨季はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)から突っ走った疲れがあったであろうが、一定して保てないバットの「入射角」は、今季に飛躍を目指すためのキーワードになっている。
「まだきょうは1日目ですけど、凡打でもいい内容でずっといければ(安打の)確率は上がってくるかなと思います。アウトになってもいいのでそこはぶれずにやっていきたいと思います」
鋭い洞察と探求心で野球の奥深さを伝えた故野村克也氏は「バッティングは8割がそなえ」の持論を唱えている。相手投手の癖、配球パターンを頭に入れ、打席の中では生きた球とデータの擦り合わせで次を待つ「読み」もある。吉田は、知将の至言に血を通わせるように言った。
「その前の段階から、初球からしっかりいける準備をして打席に入りたい」
無形の積み重ねが吉田正尚の打撃を骨太にしていく。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)