吉田正尚、剛球右腕と繰り広げた“心理戦” 意図と反した安打も…口調が滑らかな理由【マイ・メジャー・ノート】
「一番あそこで欲しいのはホームラン。逆転になるのでそれがベスト」
■マリナーズ1ー0 Rソックス(日本時間30日・シアトル)
レッドソックスの吉田正尚外野手が29日(日本時間30日)、敵地でのマリナーズ戦に「3番・DH」で開幕から2試合連続スタメン出場。3打席目までは相手右腕のジョージ・カービーに苦しめられたが、第4打席で会心の中前打を放ち2試合連続安打を記録した。チームは両軍合わせ27三振の投手戦に0-1で競り負けた。【シアトル(米ワシントン州)=木崎英夫】
レッドソックス打線は、昨季の球宴に初出場した26歳の右腕、カービーの投球に翻弄された。直球、シンカー、スライダー、ナックルカーブ、スプリットをゾーンの内と外に投げ分けられて的を絞り切れなかった。3打席で対峙した吉田も「初球の(ストライクを)取りにくるボールくらいしかチャンスがなかった」と苦しんだ。
それでも攻略の糸口を探し続けた。
6回、初球の外角高めシンカーを打った左翼フェンス近くへのファウルに好感触を得た。「あれはすごくいい感じだった。風もあって少し押し戻されましたけど、感覚的にはよかったです」。この日は左翼からの強風が舞っていた。そこを差し引けば安打にできるという手応えがあった。前日同様に、イメージ通りに体は使えている。疲れが見えたカービーが7回途中で降板すると、吉田は次の打席で一本を出した。
8回2死一塁の場面で対峙したのは、剛球右腕のライン・スタネック。吉田は、2ボールからの3球目をスライダーと読んで踏み込んだが、バットは空を切る。タイミングは微妙にずれた。変化球でくるか、それとも裏をかいてくるか――。「少しどうしようか迷った」という4球目の決断は真っすぐだった。
根拠があった。「打者優位カウント」。変化球でボールになり終盤の勝負所で3-1のカウントにはしたくないという投手心理を突いた。読み勝ちだった。98マイル(約158キロ)の内寄り低めの直球をバットの真っ芯で捉えたライナーが中堅へと糸を引く。
ただ、その打球は意図と反していた。
「カウントが有利だったので、一番あそこで欲しいのはホームラン。逆転になるのでそれがベスト。ただ、今日の風的にどう見ても、逆方向のホームランは難しいので、引っ張ってホームランしかないと思ったんで。そこはちょっと山を張っていきましたね」
射抜いたような中前へのライナーはホームランを狙った結果。その一振りには、狙い球を絞る投手との心理戦もあった。
吉田の口調が滑らかだったのには理由があった。
○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。シアトル在住。【マイ・メジャー・ノート】はファクトを曇りなく自由闊達につづる。観察と考察の断片が織りなす、木崎英夫の大リーグコラム。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)