“代打の神様”に課せられた宿命 巨人の無双左腕攻略に6か月の研究…155キロが「ゆっくり見えた」

阪神でプレーした関本賢太郎氏【写真:山口真司】
阪神でプレーした関本賢太郎氏【写真:山口真司】

関本賢太郎氏は2014年から“代打の神様”として活躍

 元阪神内野手の関本賢太郎氏は、プロ18年目の2014年シーズンから12球団でタイガースだけに存在する“代打の神様”と呼ばれるようになった。2013年に引退した桧山進次郎外野手の後を継いだ形だったが、そのために着手したのは巨人のセットアッパー左腕・山口鉄也投手対策。「嫌い中の嫌いな投手だったけど、代打の切り札になるなら避けて通れないのでね。しかも巨人ですし……」。打倒・山口だけを見据えて、打撃フォームまで変えていた。

 現役生活終盤の関本氏は代打&守備固めという、人一倍神経を使う2つの仕事をきっちりこなせる“職人”としてチームに貢献した。プロ16年目の2012年は3月30日のDeNAとの開幕戦(京セラドーム)、1-3の7回裏2死一、二塁で加賀繁投手から代打逆転3ランを放った。「加賀投手が苦手で、大嫌いだったんですよ。シュートとスライダー、どっちも嫌だった。これは致命的で(DeNAの)中畑(清)監督も僕に加賀をぶつけるのは決まり事だったと思うんですよね」。

 そんな難敵からの開幕戦での一発だっただけに当然、印象に残っている。「シュートとスライダーの両方をかわしながら、何とかならんかなっていうときに予想していなかったカーブが来たんですよ。確か3ボール2ストライクから。何か来た、見たことないのが来たってね。びっくりしたけど、遅いボールだったから考える時間があったんですよね。それをうまくひっかけてホームランにしたんです。いやぁ、不思議でした」。

 2013年シーズン限りで桧山が引退してからは“代打の神様”役も継承する形になった。「川藤(幸三)さんくらいから始まって、阪神にはそういう10番目のポジションができたわけですよ。でも、それは自分でなるものではなくて、言われるもの。タイガースファンに認めてもらって、巨人ファンからは嫌がられるようにならないといけないんです」。そう自覚していた関本氏が2013年オフシーズンに取りかかったのが、巨人のセットアッパー左腕・山口対策だ。

「山口も大嫌いでね。もう嫌い中の嫌いだったんですよ。でも代打の切り札になれば、そこを避けて通れない。タイガースと巨人の関係上ね。だからあの年のオフはずっと山口のデータを洗い直して、ビデオを見まくって、どうやって抑えられているのかを研究しました」。その取り組む姿勢はハンパではない。「155キロのシュートは必ずストライクゾーンを通る。このボールを仕留めるために打撃フォームを変えました」と話す。

「打席の立ち位置とか、バットの構える位置とか、すべて155キロのシュートに対応するにはどうするかを考えた。オフの間、6か月くらいはやりましたよ」。阪神の代打の神様と呼ばれる選手は、ライバル・巨人のリリーフ左腕に牛耳られるわけにはいかない。ただ、その思いだけだった。「明確に目的意識とターゲットがいましたからね」。そして、研究の成果を出す時が来た。2014年4月13日の巨人戦(甲子園)で山口と対戦した。

“代打の神様”は「4万人のお客さんを笑顔で帰す宿命もあるんです」

 1-1の延長10回裏二死満塁の場面だった。代打で登場した関本氏は山口の初球、低めのシュートを捉えた。三遊間を破るサヨナラヒットだ。「イメージではクリーンヒットだったので、それとは違うボテボテの打球だったけど、結果は最高でしたね」。忘れられない一打だった。「6か月も研究したら、もうコマ送りですよ。155キロがゆっくり見えましたもんね。阿部慎之助、山口のバッテリーは6か月もこのシュートを狙われていたとは思ってもいなかったと思う」。

 シュートが来た瞬間「こっちは待ってました、でした」と関本氏は当時の感触を思い出しながら笑顔で話した。「八木(裕)さんを見ていても、桧山さんを見ていても巨人のクローザーとかから打つというのは宿命なんです。代打って4万人のお客さんを笑顔で帰す宿命もあるんですよ」。山口を見事に攻略したシーンは、虎ファンが期待している時しか出ていかない“代打の神様”として、関本氏が広く認知された瞬間でもあった。

 7月13日の巨人戦(東京ドーム)では1-3の7回表に澤村拓一投手から代打逆転満塁ホームランも放った。「それも覚えていますね。ほとんどの打席ではホームランを狙っていないんですけど、あの時は狙っていましたね。澤村投手は100球を超えてボールが抜け出していて、インハイの方に抜ける球がちょっと目立っていた。僕はインハイが得意だから狙っていた。狙い通りのボールが来て仕留めたって感じでしたね」。

 またも巨人戦で魅せたのも関本氏の真骨頂だろう。結果的には、この澤村から放った劇的な一発が現役ラストアーチにもなるのだが、もちろん、この時は想像できることではない。“代打の神様”としての1年目、2014年の関本氏の成績は63試合で打率.260、1本塁打、15打点だったが、その数字以上にインパクト大の活躍だった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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