「本当に行っていいのか…」葛藤で遅れた到着 内藤鵬が母校観戦でもらった“勇気”

オリックス・内藤鵬【写真:北野正樹】
オリックス・内藤鵬【写真:北野正樹】

オリックス・内藤、甲子園出場の母校観戦は「かなり悩みました」

 決断が間違いでなかったことに気付くまで、時間はかからなかった。オリックスの高卒2年目、内藤鵬内野手は甲子園で躍動する後輩らの姿に再起の思いを強くした。「こんな姿で本当に行っていいのか、かなり悩みました。でも、行ってよかったです」。複雑な表情から一変した内藤がそこにいた。

 母校の日本航空高校石川は、今年1月1日の能登半島地震で被災。野球部の後輩らは山梨県の系列校に一時避難中の1月26日に、4年ぶり3度目の選抜大会出場を決めた。「僕がプロ野球で頑張ることで、石川県や後輩らに元気を与えたい」と意気込んでいた内藤だが、そこから1か月も経たない2月17日、春季キャンプ中の練習試合で左肩を脱臼。2月末には手術を受け、約6か月間のリハビリ生活に入った。

 昨年は甲子園で行われた5月5日、ウエスタン・リーグの阪神戦で相手野手と交錯。左膝を痛めて手術し、昨年11月に実戦復帰したばかりだった。2年連続して手術による長期離脱。自身が果たせなかった夢の舞台への出場を果たした後輩らを激励するため、甲子園に行きたかったが、チームの試合がない月曜日の休養日でなければ観戦はできない。

 当初の試合日程は大会6日目(3月23日)の第1試合だったため、観戦を諦めていたが、2日連続で雨天中止となり、3月25日に試合がずれた。「2日も順延になるなんて、奇跡的です」と当初は喜んだ内藤だったが、いざ観戦が可能になると、自分の置かれている立場を考えて迷いが生じた。

 退院して10日あまり。ドラフト2位入団のOBがアルプス席で、肩を固定しているギプス姿で応援に行けば目立ってしまい周囲に迷惑を掛けてしまう。また、チームの休養日で外出を認められているとはいえ、リハビリ中に野球観戦をしていることへの負い目もあった。

「憧れの甲子園で試合をする後輩たちを応援したいのですが、2年連続の手術をして長期リハビリ中の僕が行っていいんだろうか」。応援に行くという、かつての同級生には出欠の連絡をしないまま、当日の朝を迎えた。行かないで後悔するより、行って後悔する道を選ぼう。逡巡した分、寮を出る時間が遅れ球場に着いたのはすでに試合の後半だった。

甲子園で再会した、かつての同僚にもらった“刺激”

 アルプス席のブラスバンドの横で、旧友らと観戦。0-1で母校は敗れたが、8回のピンチには地震直後に祖母を背負って避難した福森誠也投手が伝令でマウンドに駆け付ける姿や、9回は二遊間への打球に飛びつき併殺でピンチを切り抜けた北岡颯之介内野手の美技を目に焼き付けることができた。

 9回1死一、三塁の同点機での併殺プレーでは、思わず「セーフ!」と両手を広げそうになり、患部がうずくほど気持ちは高ぶったという。「顔も知らない保護者の方が『内藤君、頑張れ』『鵬君、早く治して活躍して』などと声を掛けて下さいました。また、プロ入りが決まった際、学校を通してお祝いの手紙を下さった先輩の角中勝也さん(ロッテ)と初めてお会いすることもでき、激励していただきました」と声を弾ませた。

 うれしい再会もあった。兵庫県内の銀行に勤務する同級生の小出大雅さんと久々に顔を合わせた。小出さんは高校3年の夏で野球を引退したが、プロを目指す内藤の練習相手をずっと務めてくれた〝恩人〟だ。

「Bチームの投手で、自分は卒業後に野球をしないのに僕の練習に付き合ってくれたんです。遊んだり、自分のしたいことがあるのに、引退後の時間を全部、僕のために使ってくれたんです。プロに行けたのも小出のおかげです。僕にプロ野球選手の夢を託してくれたのかもしれません。小出のためにもリハビリを頑張って、プロで活躍しなくてはいけないと思いました」

 怪我をするまでは母校を励ますつもりでいた内藤。今では折れそうな心を支え、刺激を与えてくれた保護者や同級生、後輩たちに「僕が勇気や元気を与えなければいけないのに、逆になってしまって。これから頑張って、期待に応えないといけないと強く思いました」。

 退院直後から、キャッチボールや右手だけでバットを振るなどして体を動かす日々。もうすぐギプスも取れ、ジョギングも始めることができる。1年前に怪我をし、良い思い出のなかった甲子園は、内藤に厳しい現実を突きつけると同時に、野球への熱い思いも思い起こさせてくれた。

◯北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY