野村克也氏を思い出させる西武27歳 松井監督は高評価も…「打ちたくなかった」豪快弾

楽天戦で本塁打を放った西武・岸潤一郎【写真:小池義弘】
楽天戦で本塁打を放った西武・岸潤一郎【写真:小池義弘】

7連敗中のチームに勢い与えた一発も「体が自然に大振りになる」

■西武 5ー4 楽天(19日・ベルーナドーム)

「僕はホームランを極力打ちたくないです」。西武・岸潤一郎外野手は、初回に左翼席へ先制2号ソロを放った19日の楽天戦(ベルーナドーム)後、意外な言葉を口にした。「ホームランより、2打席目のライト前ヒットの方がうれしいです」。

 岸は「2番・左翼」でスタメン出場し、初回1死走者なしで楽天先発・早川隆久投手の148キロ速球をとらえ、左翼席へ先制弾。7連敗中だったチームは勢いづき、この回一気に3点を挙げ、3回にも岸の右前打を皮切りに2点を追加。最終的に5-4で競り勝った。

「僕は野球を始めた小学生の頃から、1打席目にホームランが出ると、『今日は打てるわ』と調子に乗ってしまい、5打数1安打(1本塁打)に終わってしまうケースが多い。体が自然にそっち(大振り)になってしまうのです」と明かし、「ホームランは本当にダメです。僕は極力打ちたくない。2打席目は『絶対、絶対、センター(返し)、センター』と自分に言い聞かせていました」と強調する。だからこそ、2打席目に“逆方向”の右前にシングルヒットを打てたことに手応えを感じたのだ。この日は4打数2安打1打点に終わった。

 岸は高知・明徳義塾高時代に投手として甲子園を沸かせたが、拓大進学後に右肘のトミー・ジョン手術を受け中退。四国アイランドリーグplus・徳島を経てプロ入りした苦労人だ。強肩・俊足で外野の守備力の高さには定評があり、これまでシーズン打率2割そこそこだった課題の打撃も、5年目の今季は.286(19日現在)と成長のあとを見せている。

「普段から松井(稼頭央)監督や高山(久打撃)コーチから教わっていることが、実戦で生かせています。前に突っ込まないように心掛けていて、追い込まれても変化球をヒットにできるようになってきました」と笑みを浮かべる。「だからホームランなんか、打ちたくないのです。せっかく毎日やっていることが、ホームランの残像で消されてしまう気がします」と心境を明かした。

 西武の外野陣は、岸をはじめ、ベテランの金子侑司、西川愛也、長谷川信哉、2軍降格中の新外国人フランチー・コルデロに、内野手登録の山村崇嘉らも加え、レギュラー不在の激烈な定位置争いを繰り広げている現実がある。

松井監督「岸の一番いいところは思い切りの良さ」

 もともとの長距離砲ならともかく、年に数本レベルの選手が本塁打を打つと、快感に酔いしれて大振りになり、むしろ打撃を崩してしまうケースがある。名将の故・野村克也氏は「ホームランはスランプの前兆。頭でわかっていても、体がホームランを欲しがる」と名言を残している。

 松井監督が「岸の一番いいところは思い切りの良さ」と評する通り、岸はプロ入り後16本の本塁打を放っており、そのうちの一発は、昨年8月4日のオリックス戦(ベルーナドーム)でのサヨナラソロ。それでも、レギュラーの座を獲得し長く活躍していくためには、確実性アップには替えられない。

「(本塁打のイメージは)もうすでに忘れています」と笑って球場をあとにした。結果オーライで済まさない思考が、好調継続を導けるか。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY