“幻想的”な本拠地開幕戦に導かれ…「新生」ガーディアンズの快進撃、増えた観客動員【マイ・メジャー・ノート】
ガーディアンズはメジャートップ16勝でア・リーグ中地区の首位を走っている
メジャー全30球団でチームの総年俸額が26位のガーディアンズが快進撃中だ。22日(日本時間23日)現在、メジャートップの16勝(6敗)勝率.727を挙げア・リーグ中地区の首位を走っている。8日の本拠地開幕戦の試合前には2世紀ぶりの皆既日食が起こり地元ファンは白昼の暗闇を体感しその後の完封勝利を見届けた。活気に満ちたガーディアンズの今季の序章を解きほぐす。【全2回の前編】(取材・構成=木崎英夫)
米国の北東に位置するオハイオ州クリーブランドが皆既日食の経路にスッポリと入り、白昼に訪れた幻想的な天体ショーに歓喜したのは8日(日本時間9日)のこと。太陽、月、地球がほぼ一直線に並び、月が太陽を覆い隠す現象が同州で見られるのは1806年以来218年ぶりで、ガーディアンズの本拠地開幕戦と重なった。
球団フロントはこの千載一遇の天体現象にあやかり、新生ガーディアンズの景気付けにしようと開始時刻の変更に向けて協議を重ねた。地元開幕戦は、過去6年で5試合が午後4時10分の開始。今季もその時刻で決まっていたが、夜7時10分からのナイターか薄暮前の夕方5時10分かの二択となり、夕方が選択された。この時間であれば、歴史的な皆既日食を体感したファンはその高揚感の余韻とともに開幕戦へ入っていくことができるという算段を立てたからだった。
米航空宇宙局(NASA)の発表通り、午後3時13分過ぎに完全に月が太陽と重なった。プログレッシブ・フィールドの空は闇に包まれた。気温は約19度。この時期の同地としては異例の暖かさとなっていたが、珍しい天体現象が始まると肌に当たる風は急に冷たくなり土の匂いを運んできた。
太陽は東から上って西に沈むという日常的な知覚的事実を知るくらいで宇宙の営みに疎い記者は、観測専用の保護眼鏡「日食グラス」をかけて幻想的な4分間の天体ショーを仰ぎ見ながら思わず感嘆の声を上げてしまった。球場にも歓声が響く。そして、再び差し込んできた陽光の中で3万6千人の大歓声と乾いた拍手が鳴り響いた——。
そこから先は、人為的な演出など必要はなかった。地元ファンのさんざめきは国歌斉唱で立ち上がるまでずっと途切れなかった。
プログレッシブ・フィールドは一大リノベーションで集客力向上を目指す
今季のガーディアンズは「新生」がキーワードになっている。
11年にも及んだテリー・フランコーナ政権が幕を閉じ、今季からはこれまで監督経験のないスティーブン・ボートが指揮を執る。戦いの舞台のお色直しも整いつつある。300億円を投じた一大リノベーションが進行中で、既に、左翼にはビヤガーデン、右翼には団体客がくつろげるテラススペースが作られアッパーデッキ部分が生まれ変わっている。来季の開幕にはバーを併設したバックネット後方のラウンジスペース他、各階にも魅力的な空間が設けられる。
人事刷新と一大リノベーションで集客力向上を目指すガーディアンズは、昨季から若年層ファンの獲得にも力を入れ出した。その代表的なものが、月額1万円以下で本拠地開催試合全てを観戦できる立ち見のパスだ。学生にとってかなりのお得感があるこのパスの売り上げは夏場には倍増したという。ただ、集客は天候にも左右される。
球団のビジネス部門の担当者に聞いた。
「地区優勝を果たした22年の観客総数は129万5870人。地区3位だった23年は183万4068人。勝利数では16勝も少なかったのですが前年より53万人も増えています。理由は単純で、天候にありました。昨年は雨で中止となったのが僅かに3試合。一方、プレーオフに出た一昨年は10試合以上も雨にたたられています」
この分析からすれば、仮に、チームが強かった一昨年が天候不順に見舞われなければ、観客動員数は逆転しもっと開きが出ていたと予想できる。今季の新生ガーディアンズはどうか。
本拠地開催試合は昨年日で観客増…チーム関係者「単純明快にチームの好調」
ここまで本拠地開催は9試合で19万1955人を動員。昨年と比較して3万7181人の増となっている。雨で中止は共に1試合。増加はリノベーション効果ももちろんあるが、前出の担当者は「単純明快にチームの好調」とした。
22日(日本時間23日)現在、ガーディアンズはメジャートップの16勝(6敗)を挙げ勝率.727でア・リーグ中地区の首位を走っている。クリーブランドの街が4分間の暗闇に包まれた白昼の天体現象が、新生ガーディアンズの勢いを連れてきたと言っても決して陳腐には響かない物語が始まっている。
8日の開幕戦でホワイトソックスに4-0で完封勝利を飾った試合後、クラブハウスから離れた会見場にはボート監督と攻守で活躍したアンドレス・ヒメネス二塁手が肩を並べて座った。
「とてもいい雰囲気が出来上がっている。各人がきっちりと仕事をして仲間たちと心を通わせることができているから」
ボート監督は淡々とした口調で切り出すと、ヒメネスは素直な気持ちを隠すことなく言い放った。
「本当はこの場所には来たくなかった。それは質問に答えたくないということじゃないんですよ。だって、今頃、皆でワイワイとやっているから。その輪から外れたくはなかった。僕たちはこの3年で一緒に成長してきた。今、お互いが野球を通して本当に理解し合える関係になっているからね」
低予算で大型補強ができなかったチームが一つになって勝ち進んでいる。
【後編へ続く】
○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。シアトル在住。「マイ・メジャー・ノート」はファクトを曇りなく自由闊達につづる。観察と考察の断片が織りなす、木崎英夫の大リーグコラム。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)