防御率0.33&3勝0敗でも…“上回る”2人のエース 21歳左腕の衝撃数値「10.57」
鷹の平均得点4.38は12球団1位、健闘のハムは先発が奮闘
3月29日に開幕したプロ野球。スタートダッシュに成功した選手をデータで探り出し、3・4月の「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。
選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。まずは3、4月のパ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。
○ソフトバンク:18勝6敗2分
得点率4.38、打率.259、OPS.715、本塁打17
失点率2.27、先発防御率2.07、QS率65.4%、救援防御率2.25
○日本ハム:14勝9敗1分
得点率3.00、打率.234、OPS.619、本塁打11
失点率2.90、先発防御率2.51、QS率62.5%、救援防御率2.48
○オリックス:13勝14敗1分
得点率2.86、打率.237、OPS.625、本塁打10
失点率2.78、先発防御率2.53、QS率50.0%、救援防御率2.44
○楽天:11勝14敗
得点率3.04、打率.231、OPS.613、本塁打8
失点率4.02、先発防御率4.36、QS率42.3%、救援防御率3.00
○ロッテ:11勝14敗
得点率2.65、打率.238、OPS.621、本塁打10
失点率3.38、先発防御率2.78、QS率61.5%、救援防御率3.55
○西武:8勝18敗
得点率2.58、打率.201、OPS.569、本塁打14
失点率2.90、先発防御率1.85、QS率73.1%、救援防御率4.25
圧倒的な勝率だったのがソフトバンク。豪華攻撃陣が実力を発揮し、1試合平均得点は12球団1位の4.38だった。先発のQS率も60%超で、救援の負担も軽くなった。初回得点率38.5%、初回失点率15.4%はいずれもリーグ1位。先制時の勝率も82.4%と安定の戦いぶりだった。
追随するのは日本ハム。完投が3度、うち2度が完封と、先発投手の奮闘が目立った。与四球6.4%はリーグ最少だった。1試合平均失点が2.90にも関わらず最下位に沈んでいるのが西武。打率.201、OPS.569は12球団ワースト。1点差試合も3勝13敗と競り負けている。
防御率0.77の西武・今井、1.41のオリ・宮城が遜色ない活躍
そんなパ・リーグのセイバーメトリクスの指標による3・4月の月間MVP選出を試みる。投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。上位ランキングは以下の通りだった。
○宮城大弥(オリックス):RSAA6.64、登板5、イニング38回1/3、防御率1.41、WHIP0.86、奪三振率10.57、奪空振率26.6%、QS率100%、HQS率80%
○今井達也(西武):RSAA5.55、登板5、イニング35、防御率0.77、WHIP0.97、奪三振率10.29、奪空振率30.3%、QS率100%、HQS率100%
○山崎福也(日本ハム):RSAA4.83、登板5、イニング34回1/3、防御率2.10、WHIP0.84、奪三振率7.67、奪空振率19.3%、QS率100%、HQS率40%
○北山亘基(日本ハム):RSAA3.85、登板4、イニング28、防御率1.29、WHIP0.89、奪三振率10.29、奪空振率29.5%、QS率75%、HQS率50%
○エスピノーザ(オリックス):RSAA3.34、登板4、イニング27、防御率0.33、WHIP0.74、奪三振率7.67、奪空振率22.7%、QS率100%、HQS率75%
○佐々木朗希(ロッテ):RSAA3.10、登板5、イニング33、防御率1.64、WHIP0.94、奪三振率10.09、奪空振率29.3%、QS率80%、HQS率80%
○藤平尚真(楽天):RSAA2.80、登板10、イニング10、防御率1.80、WHIP0.90、奪三振率10.80、奪空振率25.0%
チームが不調の中、西武・今井が存在感を示した。5登板すべてでHQSを達成。奪空振り率30.3%は規定投球回到達の投手で1位。全球種で20%以上の空振りを奪っているのも特筆に値する。
一方、22歳の宮城は5登板で1完投を含み、全登板でQSを達成。奪三振率は規定投球回到達の投手の中で1位だった。どちらも役割を果たしたが、RSAAが上位だった宮城をセイバーメトリクス目線で選ぶ3、4月の月間MVPに推薦する。
上位5人中、4人を占めたソフトバンク勢…際立った柳田の打棒
打者評価では、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。上位ランキングは以下の通りだった。
○柳田悠岐(ソフトバンク):wRAA12.16、119打席、OPS.946、打率.323、本塁打3
○近藤健介(ソフトバンク):wRAA8.61、112打席、OPS.897、打率.319、本塁打4
○セデーニョ(オリックス):wRAA7.37、112打席、OPS.878、打率.296、本塁打5
○山川穂高(ソフトバンク):wRAA7.09、114打席、OPS.815、打率.250、本塁打6
○今宮健太(ソフトバンク):wRAA6.54、107打席、OPS.826、打率.262、本塁打2
○田宮裕涼(日本ハム):wRAA5.51、65打席、OPS.878、打率.373、本塁打0
○佐藤都志也(ロッテ):wRAA5.19、58打席、OPS.931、打率.385、本塁打0
上記のランキングに掲載されていない球団のwRAA上位選手は以下の通り。
○阿部寿樹(楽天):wRAA4.49、67打席、OPS.824、打率.295、本塁打0
○佐藤龍世(西武):wRAA1.88、87打席、OPS.696、打率.236、本塁打1
上位5人のうち4人がソフトバンク勢。この4人が2~5番打者を務め、他の追随を許さない強力打線を形成している。その中でも最もwRAAが高かったのが柳田。打率.323、出塁率.462、OPS.946はすべてリーグ1位。もともと左右投手による差はない打者で、対右投手打率.317、OPS.948に対し、対左投手は打率.333、OPS.940と遜色ない。好調ソフトバンク打線の中核を担う柳田を3、4月月間MVPに推薦する。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。