30歳で戦力外「何もかも無くなった」 震える胸中…実家で両親に告げた「終わるかも」

オリックス・井口和朋【写真:小池義弘】
オリックス・井口和朋【写真:小池義弘】

オリックス・井口和朋、新天地に「ものすごく感謝の気持ちが強いです」

 震える胸中を抑え、グッと闘志を燃やす。今季からオリックスで躍動する井口和朋投手は、感謝の気持ちでマウンドに向かい続けている。

「まず、僕は1回クビになったので。何もかもが『無くなった』ところでオリックスから声を掛けてもらった。もう1回、野球ができるチャンスを与えてくださった。だから、毎試合にかける思いも強いですし、ものすごく感謝の気持ちが強いです」

 昨オフ、8年間お世話になった日本ハムから戦力外通告を受けた。「周りの方がすごく心配してくださいました。今でも、その方々の顔が頭をよぎります」。所属先を探している時、オリックスから育成契約の打診があり、背番号「129」で新天地に移籍。2月の宮崎春季キャンプ、3月のオープン戦でアピールを続け、今季開幕直前の3月26日に支配下選手登録を勝ち取り、背番号は58となった。

「正直に言うと、もう1度、1軍の舞台に立つことが想像できていなかったのが本音です。(背番号)3桁で練習している時もです。戦力外になって、1軍のマウンドに立つ自分が想像できなかった。その境地まで行っていました」

 オリックス入団後は「もう1回チャンスをもらったとはいえ、1年間しか期間はない」と焦りを隠せなかった。「今年、結果が残せなかったら、来年(の契約)は無い世界なので……」。宮崎春季キャンプでは、居残り練習でブルペンに“こもる”ことも多かった。

 中垣征一郎巡回ヘッドコーチから指導を受け「あの時、言ってくださる理論は(頭で)理解できていたんですけど、僕の体に染みつくまで時間がかかっていた。新しい練習なので、当然そうだと思います。キャンプ中は全然、体に染み付かなくて……。せっかくオリックスにもう1回チャンスをもらったのに『このまま終わるのか……』ということも考えたことがあります」と一時は“マイナス思考”になったことも明かす。

 それでも、教わった練習を日々継続することで「すごく状態が良くなっています。良い方向に進んでいる感触があります」と笑顔を見せる。

実家で両親に告げた「終わるかもしれない」からの“復活”

 開幕直後はビハインドの場面での登板が目立ったが「本当にどのポジションでもありがたいです。今は先発投手が上手くいかなかった時に、僕たちがなんとか持ち堪えて、野手が打ってくれるのを待つという感じです。もちろん、それが結果的に勝ちにつながる可能性がある。イニングを跨ぐこともありますけど、僕は期待に応えるだけ。起用してもらえるだけでうれしいことなんです。3イニング投げることは、これまで(のキャリアで)あんまりなかったので新鮮な気持ちです」と充実の表情で話す。

 奮闘する理由がある。昨年、神奈川の実家で“人生相談”をした。「(野球人生が)今年で終わるかもしれない」。両親は、深く頷いた後、そっと背中を押してくれた。今では、新天地で再び輝く息子が誇らしい。

「大阪まで母親が1人で来てくれたり……。めちゃくちゃ試合を観に来てくれるんです。実家が神奈川なので、千葉と埼玉の6連戦は家族の誰かしらが5試合くらい観戦に来てくれていました。ずっと、小さい頃から一生懸命、取り組んできた野球なので。それが『終わるかもしれない……』というところまで行った。両親もいろいろな感情があって、今も観てくれていると思います。僕も、その気持ちは忘れていません。去年のこと(戦力外)もありますから、感じるものがあるんでしょうね。残りの人生、いつまで野球ができるかわからないですけど、熱い気持ちを持って、応援してくださる方々のために頑張りたいと思います」

 今季ここまで8試合に登板して防御率1.50の成績を残している。求められた場所で、力を発揮する。30歳、まだまだ諦めない――。ふぅっと息を吐き、108つの縫い目に、今日も指をかける。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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