ダルビッシュ有、怪我があったからこそ「成長できた」 地獄からたどり着いた金字塔【マイ・メジャー・ノート】

ブレーブス戦に先発したパドレス・ダルビッシュ有【写真:Getty Images】
ブレーブス戦に先発したパドレス・ダルビッシュ有【写真:Getty Images】

ダルビッシュは200勝達成にも「正直、実感がない」

■パドレス 9ー1 ブレーブス(日本時間20日・アトランタ)

 パドレスのダルビッシュ有投手が19日(日本時間20日)、敵地アトランタでのブレーブス戦で今季4勝目(1敗)を挙げ、日米通算200勝の大台に届いた。7回99球を投げ、2安打無失点9奪三振の好投でメジャー通算107勝とし、日本時代の93勝と合わせ節目の記録を達成した。【アトランタ(米ジョージア州)=木崎英夫】

 前日の登板は悪天候のため中止。ダルビッシュは1日スライドしてこの日のマウンドに立った。

 3回までは2安打と1四球で毎回走者を背負ったが、緩急を付けた力みのない投球で無失点。初回に3点、4回に4点を奪った打線の援護もあって勢いに乗った。中盤からは速度と軌道の違うカーブを巧みに使い、4回からは4イニング連続3者凡退の快投。

「スローカーブと、中間と速いのがあるので。相手を見ながら変えていた」

 110キロ台から120キロ台の落差のあるカーブを低めに決め、3回2死から13者連続アウトで強力ブレーブス打線をよせつけることはなかった。多彩な球種を誇るが、常に相手チームの攻撃傾向や打者の癖も頭に入れながら組み立てる真骨頂の投球術が冴えわたった。

 試合後のクラブハウスでは、シルト監督とニエブラ投手そして同僚たちからねぎらいの言葉をもらいシンプルに祝ったと明かす。200勝にも「正直、実感がない。特にないけど、200に届いたのでほっとしている」。淡々と話すダルビッシュが言葉に心情を宿した。

「特に自分にかける言葉もないが、パドレスが自分に契約をくださっているからできることなので。自分ができることは謙虚に明日からやっていくこと。今日のことは今日で忘れたい」

 メジャー13年目の今季は開幕から5登板連続で白星がなく、首の張りで4月15日から15日間の負傷者リスト(IL)入り。復帰戦となった同30日の本拠地・レッズ戦からは、プレートの踏み位置を三塁側にずらし、次の5月6日の登板では投球の一連の動作を変えて、3連勝。200勝を目前にしても理想の投球を求める取り組み方は変わらず、着実に前進した。

ブレーブス戦に先発したパドレス・ダルビッシュ有【写真:Getty Images】
ブレーブス戦に先発したパドレス・ダルビッシュ有【写真:Getty Images】

カブスに移籍した2018年が「一番苦しかった」

 2012年に日本ハムからレンジャーズに移籍したダルビッシュは、期待通りの活躍を見せ16勝を挙げた。しかし、3年目の春のキャンプ中に右肘の靭帯に損傷が見つかり修復手術を受け復帰まで1年2か月を要した。この間の単調なリハビリの日々を、投球とトレーニング法の再考の機会と捉え「楽しかった」と微笑むダルビッシュは、「一番苦しかったのは(カブス移籍の)2018年だった」と言い切った。

 18年に移籍したカブスでダルビッシュは右肘痛に見舞われ、わずか8試合の登板でシーズン離脱を余儀なくされた。この時期を「地獄」と喩えたのを思い出す。

 その頃だった。右肘横の辺りにできた筋肉の凝りの解消法を模索していたダルビッシュがある日、本拠地のロッカーに置かれたジュラルミンケースから、おもむろに取り出したのが、重厚なドリルだった。先端にゴム製のカートリッジが取り付けられたそれを手にした声が弾んだ。「秘密兵器です!」。背後から光が射しているかの様なあの姿は忘れられない。

 ダルビッシュは漂った。でも、沈まなかった。

 19年後半からは四球難を解消。夏場に調子を上げた。同年8月21日のジャイアンツ戦で、史上初の「5戦連続無四球&8奪三振以上」を記録。その頃を「天国」と称している。そして、新型コロナウイルスで従来の162試合制から60試合制に短縮された昨季に8勝を挙げ、日本投手初の最多賞を手にした。

「怪我をしてすごく(心の)痛みを知りました」

 パドレスに移籍した21年、春のキャンプでダルビッシュはこう言った。

「エースだとは思っていませんが、このチームで、投手陣でもベテランなので、みんなの心のケアをちゃんとするようにしています。僕は怪我をしてすごく(心の)痛みを知りました。今年で35歳ですし、これまでよりもチーム全体をもっと見るようになりました。人間的にすごく成長できていると思います」

 あれから3度目の新緑の季節が巡ってきた。

 4月の戦列離脱中には食事を再考。体脂肪を3%落とした。培ってきた動作解析に基づいた科学的トレーニング法と独自のデータを詰め込んだiPadは愛妻との外食の際にも携行するなど準備は徹底している。周到過ぎるほどの周到さと細心過ぎるほどの細心さなくして、天賦の才もここまでの投球術には到底及ばなかった。

「家族がすごくヘルプしてくれるので、そこが頑張る原動力になっている。ファンの方々もずっといろんな言葉とか送ってくれる。自分が良くない時も。そういうのが一番力になっている」

 メジャー公式戦でトータル2万4122球を投げ節目の200勝に到達したダルビッシュ。視界には敬愛する野茂英雄の201勝と黒田博樹の203勝が入るが、数字そのものではなく「本当に実力で追い付きたい。そこは次の目標」。

 地獄から這い上がり、天に舞い、そして今、ダルビッシュ有は新たな希望の平原に立つ。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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