中村晃の願い「発見が早ければ助かる病気」 ホークスが行う「ピンクフルデー」の意義

ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】

「1人でもそういう人が増えて、元気に生活できれば」

 スタンドがピンク色に染まった3日間、ソフトバンク・中村晃外野手は特別な思いを抱きながらプレーしていた。17日から19日に本拠地みずほPayPayドームで行われた西武戦は、「ピンクフルデー」として開催した。「タカガールデー」から昨季、名前を変え、球団にとって意義あるイベントになっている。

 2024年の「ピンクフルデー」初戦となった17日の試合、ホークスは6-2で快勝した。山川穂高内野手、近藤健介外野手の本塁打が飛び出した一戦で、先制点を生み出したのは中村晃のバットだった。2回1死三塁で三遊間を破る技ありの左前適時打。「追い込まれていたんで、なんとかバットに当てて、どこかに飛んでくれればいいなって、そういう感じです」。必死の思いで放った一打だった。

 この「ピンクフルデー」は2006年、若い女性ファンを開拓することを目指した「女子高生デー」として始まった。2014年には女性ファンを対象にした「タカガールデー」に名前を変え、2023年には対象を女性ファンに限らない「ピンクフルデー」になった。全ファンを対象にした名称へと変更する際にも、「ピンク」のテーマカラーを変えなかったのには、大きな意味がある。それが「ピンクリボン運動」の取り組みだ。

「ピンクリボン運動」は乳がん検診の受診、早期発見を啓発、推進する取り組みだ。かつて選手、コーチとしてホークスに在籍していた鳥越裕介氏が2008年に愛妻を乳がんで亡くした。自分のように悲しく、辛い思いをしてほしくない、との思いを持ち、鳥越氏が球団に活動を持ちかけたことで、この「ピンクリボン運動」の取り組みをイベントに取り入れるようになった。

ソフトバンク・甲斐拓也(左)と中村晃【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也(左)と中村晃【写真:荒川祐史】

 イベント期間中は検診バスによる乳がん検診が実際に実施されたり、ピンクリボン運動を呼びかけるために、選手が「ピンクリボンユニホーム」を着用、球場の装飾、審判のユニホーム、グラウンド上のベースなどもピンクになり、さまざまな取り組みで検診の受診、早期発見を呼びかけてきた。鳥越氏が先頭に立って行ってきた活動は、同氏がホークスを退団した後の2018年から、中村晃が活動を引き継いだ。

 今年は初めて3試合が「ピンクフルデー」として開催され、球団としてもその規模を拡大させていっている。中村晃は「年々、規模を大きくしてくれていますし、お客さんもたくさん来てくれている。そういう中で、少しでも検診に行ってもらえるように呼び掛けられればいいのかなと思います」という。そして今年、鳥越氏と中村晃にうれしい知らせも届いた。

「検診を受けて早期発見できた人がいたっていう話を鳥越さんから連絡をいただいて聞きました。本当に良かったな思いますし、その人は元気に生活しているということで、発見が早ければ助かる病気なので、早く見つけて、1人でも多く元気になれればいいと思います。1人でもそういう人が増えてくれれば、元気に生活できれば、いいのかなと思います」

「ピンクフルデー」の取り組みの中で、乳がんの早期発見に繋がり、治療できた人が実際にいたのだという。中村晃が願うのは、この活動がもっと広まり、多くの女性が乳がんの検診を受診してくれるようになることだ。

「鳥越さんから声をかけてくれたので、自分もそういう活動をして、(後輩が)受け継いでいってくれればいいのかな、と。僕の後にも誰かに託して、またそういう活動がずっと続くようにしていきたいなとは思います」。鳥越氏から中村晃へと受け継がれてきた願い。ホークスファンだけでなく、多くの野球ファン、そして全ての女性に届いてほしい。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY