戦力外で「全てを失った」 一瞬で消えた財産…“異例”の通告に放心状態「今日で終わり」

元オリックス・西村凌氏【写真:本人提供】
元オリックス・西村凌氏【写真:本人提供】

2022年まで5年間、オリックスでプレーした西村凌氏

 目の前が真っ暗になった瞬間を、今でも忘れない。2022年10月にオリックスから戦力外通告を受け、現役引退を決断した西村凌氏は、昨年2月から「ソニー生命保険株式会社」のライフプランナーに“転身”。ピシッとスーツを着て革靴で歩き回る「第2の人生」も、ひたむきに邁進している。

“異例”のタイミングでの通告だった。2022年10月、京セラドームでの練習に参加していた日に球団から呼び出され“お達し”を受けた。「クライマックスシリーズを突破して、その翌日でしたね。日本シリーズに向かうつもりで準備はしていました」。バットを置き、履いていたスパイクもシューズケースにグッと入れた。

「戦力外になった瞬間は『全てを失った』と思いました。小学5年生で野球を始めた頃から、それまでの僕が積み上げてきた時間や財産がその日で一気に無くなった。たいした実績もないので偉そうなことは言えないですけど……。自分の中では、かけがえのない時間にピリオドが打たれた気がしました」

 通告を機に、終止符を打つと決めていた。12球団合同トライアウトの受験はしなかった。「スパッと引退を決めることも勇気のいる選択ですけど、僕は野球をやりきった気がしていました。あの時に『自分の全て』がなくなったと思えたからこそ『野球はここまで』だと割り切れました。『今日で終わり。野球、ありがとう』。そう思えたので、第2章の始まりを迎えることができました」。そうは言っても、数日間は“放心状態”だった。

引退後も「同じ熱量を注げる職業に尽きたい」

 しばらくすると「同じ熱量を注げる職業に尽きたい」と燃えてきた。縁があって「ソニー生命保険株式会社」に入社。「華やかだと思われがちなプロ野球界を去っても、まだまだ自分の人生は向上しているイメージでいたい。グラウンドでキラキラしている人たちに負けたくない。僕の原動力はそこですね」。バットをペンに持ち替え、努力を重ねる日々だ。

「振り返ると、現役の時は心と体が疲弊していました。シーズンは終わらないマラソンなんですよ。『よし、やってやるぞ!』って、もちろん毎日思うんですけど、心のどこかで『今日も試合かぁ……』とネガティブになっている自分がいましたね。心の持ち方の部分で、もっと方法はあったはずでした。だから、野球選手を終えたからこそ(プレーヤーに)尊敬の気持ちが芽生えてきました」

 現役を引退した今、客席で観戦する試合もある。「球場に行けば『かっこええな……』と。現場で戦っていた自分が、もうファンになっています。1年でスタンドを飛び越えました(笑)」。現役時代から切磋琢磨してきた宗佑磨内野手、中川圭太内野手らが打席に立つと、自然と強く拳を握っている。

「野球選手って、現役生活が終わっても何やってもできるんやろうなって本気で思います。一瞬の集中力、5、6時間もフルで練習できる体力がありますから」。客席に座っていても、かつてベンチで見守っていた頃と同じ感情になる。「人間、ボタン1つで変われないですよ……」。後輩たちの躍動に、目頭が熱くなる。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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