甲子園スター→TJ手術→大学中退→独立L…27歳が掴んだ西武の“新4番” 抜擢された背景
25日の日本ハム戦で“虎の子”の1点もぎ取る先制二塁打
■西武 1ー0 日本ハム(25日・ベルーナドーム)
パ・リーグ最下位と低迷中の西武に、ほのかな光明が見えた。5年目の岸潤一郎外野手が今月21日のオリックス戦(京セラドーム)からプロ入り後初の4番に抜擢され、以降の全4試合でヒットを放ち、その間15打数5安打(打率.333)、4打点(25日現在、以下同)の活躍だ。決して長打力に特化した選手ではない。新たなタイプの中軸が、苦境のチームを押し上げるか。
25日に本拠地ベルーナドームで行われた日本ハム戦。4試合連続で4番に座った岸は、初回2死二塁の先制機で打席に入った。日本ハム先発の金村尚真投手に対し、初球の外角低めのスプリットを空振り。「正直言って、めっちゃいい球やな、と思いました。そこで2球目は、初球よりバットをもっと短く持ちました」と明かす。普段から指1本分~1本半ほどバットを短く持っている岸は、追い込まれると2~3本分に持ち直すが、この打席では2球目にして“追い込まれた気持ち”で臨んだわけだ。
そして2球目に、真ん中付近へ来た147キロのストレートを一閃。打球は左中間を深々と抜け、二塁走者の栗山巧外野手をホームに迎え入れた。西武は結局この最少得点を投手5人の継投で守り切り、1-0で勝利を収めた。
西武は今季、チーム総得点149(1試合平均2.2得点)、チーム打率.202がいずれも12球団ワーストの貧打にあえいでいる。最も数多く4番を務めているのは、来日1年目のヘスス・アギラー内野手(29試合)で、メジャー通算114本塁打の実績を持つ長距離砲だが、打率.204、2本塁打の不振で、5月8日に右足首痛で出場選手登録を抹消されたままになっている。これに次ぐのは、NPB通算478本塁打の中村剛也内野手の23試合だが、40歳のベテランとあって、毎試合出場というわけにいかない。
27歳の岸の4番抜擢は、渡辺久信GM兼監督代行が「本来は全然、4番バッターではないと思います。ただ、現有戦力で4番を打たせるとなると、岸だろうな、というところ」と認める“苦肉の策”だった。
ひょうたんから駒? 「みんなが予想していないところで1発で仕留める」
平石洋介ヘッド兼打撃戦略コーチは「なんとか打線が上位で途切れず、つながるようにしたいという思いで、バントもエンドランもできる岸を4番に置くことにしました。もちろん、打撃の調子がそこそこ良かったことも、理由の1つです。4番は本来、アギラーやサンペイ(中村)のような選手なのでしょうが、岸のようなタイプが4番に入ってもいいのではないかと考えました。本人には『何も変える必要はない。今までのスタイルのままでやってほしい』と伝えています」と説明する。
“ひょうたんから駒”ではないが、4番に座った岸は予想以上の勝負強さを見せている。22日のオリックス戦(京セラドーム大阪)でも、3回に5号3ランを放ち勝利を引き寄せた。
渡辺監督代行は「皆さん(報道陣)も感じていると思うけれど、岸は何かこう、1発で仕留める時がある。みんながあまり予想していなかったところで、1発で仕留める。彼が持っている運なのか……」と感嘆。「甲子園のスターだから? 甲子園のスターって、そういうものを持っているんだよね、たぶん」と続けた。
岸は高知・明徳義塾高時代に、4度甲子園出場。当時は「4番・投手」を務めることも多かった。ところが拓大進学後は相次ぐ故障に見舞われ、右肘のトミー・ジョン手術を受けるも経過が思わしくなく、大学を中退するに至った。いったんは現役引退を心に決めたが、四国アイランドリーグplusの徳島に入団し野手に専念。俊足堅守の外野手に生まれ変わり、2019年ドラフト8位で西武入りを果たした苦労人だ。
岸は「“4番”という響きには、懐かしさを感じます」と遠い目をしながら、「調子に乗らず、練習通りセンター中心に打っていきたいと思います。打順は何番だろうが、やることは変わらないと思います」と自分に言い聞かせるように話す。
今季既に1番から9番まで、全ての打順を経験している岸だが、今のところ4番に座っている時が最も生き生きとして見える。ひょっとすると、かつての甲子園のスターは紆余曲折を経て、自分が一番輝ける居場所を見つけたのかもしれない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)