西武ドラ1はなぜ負けない? “宝刀”は低め徹底…データで浮き彫りの高度な投球術
武内夏暉は昨秋ドラフトで3球団競合の末に西武に入団
2023年のドラフト会議で、3球団競合の末に西武に入団した武内夏暉投手。4月3日にプロ初マウンドにあがると、7回無失点でデビュー戦を白星で飾った。以降も好投を続け、開幕から6試合連続クオリティスタート(6回以上3自責点以下)をクリアするなど、防御率1.27と抜群の安定感を見せている。即戦力ルーキーとして素晴らしい活躍を見せる武内の強みをデータから探っていく。(数字はすべて6月16日終了時点)
武内の1番の武器といえるのが、コントロールの良さである。7試合に先発して与えたフォアボールは8個。与四球率1.45はリーグ平均より優れており、四球による出塁を相手に与えないことで好成績に結びつけている。本人は自身のセールスポイントに、四死球の少なさと左右の打者に関係なくインコースに投げ込めるコントロールを挙げており、プロの打者相手にも持ち味を存分に発揮している。
制球力を深堀りしていくと、相手打者を2球で2ストライクに追い込んだ打者の割合が37.8%、同3球での割合が65.3%を記録している。いずれもリーグ平均より約10ポイント高く、相手打者を2ストライクに追い込むまでが早いことが示されている。一般的に打者は、ストライクカウントが進むごとに打撃成績が低下していく。特に2ストライクになると、打撃成績が大幅に落ち込むため、投手にとって2ストライク目を取れるかどうかは、勝負を左右する大きな分岐点となる。武内は投手優位の展開に持ち込むことで、相手打者に隙を与えず好成績を収めているようだ。
ストライクカウントを重ねるごとに投手が有利になるとはいえ、相手打者を追い込むまでに甘い球を痛打されてしまっては失点につながる可能性が高い。そこで、追い込むまでの投手成績を確認すると、0・1ストライク時に被打率.197、被OPS.510と非常に優れた数値を記録していた。
データスタジアムでは、許した打球の強さを3段階に分類して集計している。武内が0・1ストライク時に許した打球の強さをリーグ平均と比較すると、ヒットや長打につながりやすい強い打球が少なく、弱い打球が多いことが分かる。ストライク先行の投球でありながらも、浅いカウントで相手に痛打を許していないようだ。同カウントに発生したインプレーの打球は73本あったが、このうち長打となったのはわずか4本。甘い球でストライクを取っているのではなく、厳しいゾーンや打者が苦手とするゾーンでストライクを取っており、高度な投球術を有していることがうかがえる。
1イニングあたりの投球数「13.4」はパの先発投手で最少
ここからは、2ストライクに追い込んだ後の投球を分析していきたい。2ストライク時の球種割合と被打率を見ると、チェンジアップが被打率.077と優秀な決め球であることが分かる。0・1ストライク時には、チェンジアップの投球割合は10.9%と使用頻度が低く、相手打者にチェンジアップの軌道をなるべく見せることなく、2ストライクに追い込んでから勝負球として用いているようだ。
今季2ストライクから投じたチェンジアップ52球を分析すると、88.5%にあたる46球を低めのゾーンに集めていた。打者にとって打ち頃である、真ん中から高めに抜けることはほぼなく、被打率の低さも納得の内容となっている。低めの46球のうち41球がボールゾーンであり、勝負球のチェンジアップは徹底して打者が打ちにくいゾーンに集中している。相手打者は2ストライクに追い込まれると、低めボールゾーンのチェンジアップを打たされる形となり、ヒットを打つのが困難な状況となっているようだ。ストライクを取る制球力はもちろんのこと、決め球として投じる変化球の精度も非常に高い。
こうしたストライク先行、かつ優秀な決め球を操る武内の投球は、球数の少なさにつながっている。1イニングあたりの投球数は13.4球で、パ・リーグの先発投手の中で最も少ない。開幕からの7登板で1試合最多の投球数は103球と無理をさせない起用法の中で、平均投球回は7イニングを超過。省エネピッチングで多くのイニングを投げ抜くことに成功している。
リーグ最下位に沈む西武において、開幕から負けなしの4連勝とルーキーながら獅子奮迅の活躍を見せる武内。6月4日には、感染症による体調不良で登録抹消されたが、26日の日本ハム戦で復帰登板を果たした。確かなコンロトールと精度の高いチェンジアップを武器に、今後は連勝記録をどこまで伸ばすことができるか、そして新人王を含めたタイトル争いに注目したい。
(「パ・リーグ インサイト」データスタジアム編集部)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)