逃した甲子園…大会直前に主将“剥奪” 意地のサイクル達成、元プロの父追い「上の舞台で」
レギュラー獲得後「あと一歩で何回甲子園を逃してきたかわからない」
横浜高の椎木卿五捕手(3年)は、惜しくも今夏の甲子園出場を逃したが、24日に横浜スタジアムで行われた東海大相模高との神奈川大会決勝で、サイクルヒットを達成。大会を通じ7試合で打率.538(26打数14安打)、2本塁打、9打点の猛打を振るった。本人は卒業後の進路としてプロ入りを熱望している。
「甲子園に行くということは、簡単ではないと痛感しました。正直言って、あと一歩のところで甲子園を逃すということを、この3年間を通して何回経験してきたかわからない。最後は絶対に(村田浩明)監督を甲子園に連れて行くと強く思っていましたが、実現できず悔しいです」。決勝戦で敗退後、悔し涙を流しながら言葉を絞り出した。
1年生にして夏の甲子園大会でベンチ入り。しかし、その年の秋にレギュラー捕手となると、秋季神奈川大会で優勝したが、関東大会の準々決勝で敗れ、翌春の選抜出場を逃した。昨夏は神奈川大会決勝に進み、慶応高を2点リードして9回を迎えるも、まさかの逆転3ランを被弾し敗退。相手の慶応高はそのまま全国制覇へと駆け上がった。その年の秋も、神奈川大会準優勝で関東大会に駒を進めたが、初戦で埼玉・花咲徳栄高に苦杯をなめさせられている。
そんな鬱憤を晴らすかのように、東海大相模高との決勝戦では躍動した。初回1死二塁の好機に左中間への先制適時二塁打。3回には“逆方向”の右翼席へソロ本塁打を放ち、リードを広げた。7回には得点にこそ結びつかなかったが、右中間を破る三塁打をマークした。
低反発バットへの移行もどこ吹く風「やり切ったけれど、勝ちたかった」
ところが、チームは4-2とリードして迎えた8回に一挙4点を奪われ逆転される。9回2死走者なしで最後の打席に入った椎木は、「自分で終わりたくない。自分が打てば絶対に逆転できる」という思いで、スライダーを中前に運びサイクルヒットを達成。2死一、二塁と詰め寄ったが、反撃もここまでで、4-6で敗れた。サイクルヒットは「最後まで気づいていなくて、(試合終了後に)記者の方に言われて知りました」と椎木は言う。チームと勝利と甲子園以外は、眼中になかった。
昨秋から主将を務めていたが、今年5月に2年生の阿部葉太外野手への主将交代を命じられた。「悔しいのひとことでしたが、監督から『プレーに専念してチームを勝たせてくれ』と言われて、それならとことんやってやろうと思いました」と振り返る一方、経験豊富な最上級生として「キャプテン同様、試合の中で、言動でチームを引っ張れるように意識していました」と明かした。
今春から低反発バットに移行した影響など、どこ吹く風とばかりに今大会で打ちまくった椎木は「この負けも糧にして、上の舞台でプレーしたい。プロ志望届を出そうと思います」と明言した。父の匠さんはかつて中日、ロッテ、西武で計17年間捕手として活躍。その背中を追う覚悟だ。「高校野球は、やり切ったとは思うのですが、勝ちたかったです」と吐露した満たされない思いは、今後も椎木の背中を押し続けるはずだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)