東海大相模・才田和空は「隙がない」 5年ぶりの甲子園…原監督が目指す野球の“体現者”
東海大相模・才田がお手本にする、先輩のプレースタイル
第106回全国高校野球選手権の神奈川大会は、24日、東海大相模が終盤の逆転劇でライバル横浜を6-4で下し、5年ぶり12回目の優勝を果たした。
東海大相模の原俊介監督が掲げるのは『つながる野球』。攻守のキーマンとして、目指す野球を体現していたのが遊撃手の才田和空だ。守備では巧みなフットワークで、難しい打球を幾度もさばくと、打つほうでは7試合で22打数14安打11打点。準決勝の8回に逆転二塁打を放つと、決勝でも先頭打者で迎えた8回に中前打で出塁し、逆転のきっかけを作り出した。
試合中、才田はよく喋り、よく動く。スタンドからその動きを見ていると、グラウンドの中に1人、指導者がいるような感覚になる。常に周りに目を配り、打球に対する1歩目、打球方向、ポジショニング、風など、1球1球の短い間合いの中で、声やジェスチャーで的確な指示を送り、意思を伝える。
2年秋に遊撃手のレギュラーを獲ってから、ずっと続けていることだ。心の中には、手本にしている先輩の存在がある。「1年生のときに、深谷さんのことをずっと見ていたんですけど、あの人は喋りが止まらない。すごいなと思って」。
深谷さんとは、2年前の正遊撃手・深谷謙志郎(法政大)のことだ。気持ちが全面に出るファイターで、試合中、声が絶えることのない選手だった。
「どこにそんな体力があるんだろうって。自分も去年の秋から深谷さんの真似をするようになって、やってみると、喋ることが重要なんだと分かるようになりました。1球1球集中できる。それに、自分が喋れば、周りも勝手に喋るようになる。グラウンド上では、『全員で守って、守備からいい流れを持ってくるぞ』という話をしています」
先輩・及川将吾が感じる才田の“成長”
「才田、安定感が出て、うまくなりましたよね」
うれしそうに話してくれたのは、決勝戦の応援に来た1つ上の先輩・及川将吾(亜細亜大)だ。昨年は主将を務め、遊撃を守った。「才田とは、ずっと同じショートをやっていて、兄弟みたいな感じなんですよね。今もよく連絡をくれます。自分も深谷さんの真似をして、声を出すようになって、もっとさかのぼると、深谷さんの1つ上の綛田さん(小瑛/大商大)から、その血は流れていると思います」。
綛田は二塁手だったが、綛田もまたよく喋る内野手だった。「原先生からよく言われたのが、『試合中にエアポケットに入ると抜け出せない。声かけをちゃんとやることで、冷静にプレーできるようになる』。才田はそれがしっかりできていると思います」。
言葉やジェスチャーで、気持ちや意図を伝える。これも、原監督が目指す『つながる野球』のひとつだ。
才田は投手にもよく声をかける。準決勝の向上戦の8回に、1点を勝ち越されたときには、マウンドの藤田琉生に対して、「まだ追いつけるから粘れ!」と声をかけ、気が沈みそうになっていた藤田を生き返らせた。
部長が送る賛辞「全てにおいて隙がない」
才田の成長をそばで見守ってきた和泉淳一部長は、その取り組みに対して、最大級の賛辞を送る。
「才田は模範生です。1年生にいつも言っているのは、『才田を見習いなさい。私生活、学校生活、グラウンドでの姿、全てにおいて隙がない。夏、必ず結果を出すから見ておきなさい』。それだけの取り組みをしている。すべてにおいて満点です」
もちろん、最初から全てができていたわけではない。2年秋の県大会では、難しい体勢で捕球したあと、無理やり一塁に投げた結果、悪送球で進塁を許す場面が何度かあった。
大会後、原俊介監督は厳しい言葉を投げかけた。「状況判断ができていない。お前のその1つのミスで負けるぞ。生活面から状況判断を磨くこともできる。そこから変えてみなさい」。
その言葉を受けて、生活面から意識を変えるようになったという。
「原先生の言葉を信じてやってみようと思いました。授業をしっかり落ち着いて受ける。ほかには、前を歩いている生徒がいたら、その仕草や目線を見て、真っすぐ歩くか曲がるかを想像してみる。ほとんど当たらないですけど、考えることが面白くなりました」
何事も落ち着いて取り組むことで、視野を広げることができる。前のめりに気持ちを出すことも大事だが、それだけでは勝負事は勝てない。練習のときから、原監督が口酸っぱく伝えているのは、「心は熱く、頭は冷静に」。大事な場面で適時打が出ると、派手なガッツポーズをするのが今どきの高校生だが、この夏、東海大相模の選手たちは一切やっていなかった。
準決勝で勝ち越し打を放った才田も、二塁の塁上で冷静だった。「ガッツポーズをしてしまうと、自分が浮き足立つというか、頭が沸騰して、それが守備にも影響が出てしまう。原先生から学んだことで、それを言われてからはずっと意識しています」。
仲間と交わした約束を果たした“最後の夏”
出身は西宮市立鳴尾中。実家は、阪神甲子園球場まで徒歩10分の場所にある。夏休みになれば、無料で入れる外野席で高校野球を観戦するのが楽しみになっていた。
忘れられない本塁打がある。小学3年生の夏、右翼席の上段で観ていた仙台育英-東海大相模の決勝戦。同点で迎えた9回表、小笠原慎之介(中日)が放った右翼への本塁打が決勝点となり、東海大相模が夏の全国制覇を成し遂げた。もちろん、そのときは、自分がタテジマを着て、高校野球をやることなど想像していなかった。
2021年にセンバツを制した、強い東海大相模の野球に惹かれて、激戦区・神奈川に勝負しに来た。地元を離れるとき、長尾中のクラスメイトや、在籍していた関メディベースボールクラブのチームメイトに誓ったことがある。
「必ず、甲子園に戻ってくるから」
最後の夏、約束を果たすことができた。「近くて遠い」と感じていた憧れの甲子園。「チームが勝つことを第一に考えて、プレーしたいです」。『つながる野球』を体現して、目標の日本一を獲りにいく。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。