苦闘の西武で輝く“希望” 23歳左腕の際立つ安定感…チーム支える「5.13」
好調だった7月のロッテ打線…原動力となったポランコ、ソト、佐藤、高部
7月に最もチームに貢献した選手をデータで探り出し、セイバーメトリクスの指標でパ・リーグの「月間MVP」を選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。
ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。
まずは、7月のパ・リーグ月間成績を振り返る。
○ロッテ:13勝9敗
得点率5.23、打率.275、OPS.738、本塁打18
失点率4.35、先発防御率3.88、QS率54.5%、救援防御率3.92
○日本ハム:12勝7敗2分
得点率4.67、打率.251、OPS.695、本塁打20
失点率3.41、先発防御率2.76、QS率57.1%、救援防御率2.93
○楽天:12勝8敗
得点率4.50、打率.254、OPS.706、本塁打16
失点率4.33、先発防御率3.83 QS率45.0%、救援防御率4.52
○ソフトバンク:11勝10敗
得点率3.19、打率.229、OPS.626、本塁打12
失点率2.85、先発防御率2.76、QS率71.4%、救援防御率2.75
○オリックス:7勝11敗1分
得点率2.32、打率.214、OPS.576、本塁打8
失点率3.60、先発防御率3.54、QS率63.2%、救援防御率2.37
○西武:5勝15敗1分
得点率2.24、打率.218、OPS.546、本塁打5
失点率3.74、先発防御率3.21、QS率57.1%、救援防御率4.08
7月は上位と下位で得点力に大きな差が生じた。月間平均得点が5点を超えたロッテで原動力となったのは高部瑛人外野手、グレゴリー・ポランコ外野手、ネフタリ・ソト内野手、佐藤都志也捕手の上位打線だ。4人とも月間OPSが0.8を超え、ポランコ、ソトはリーグ1位の月間6本塁打。月間防御率3.89の投手陣をカバーした。
西武・武内が7月も安定の投球…28回2/3で与四球は2つ
そんなパ・リーグのセイバーメトリクスの指標による7月の月間MVP選出を試みる。投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示すRSAAを用いる。RSAAの上位ランキングは以下の通りとなった
○武内夏暉(西武):RSAA5.13、登板4、イニング28回2/3、防御率2.51、WHIP0.91、奪三振率7.22、与四球率 0.67、 QS率75%、HQS率25%
○加藤貴之(日本ハム):RSAA4.73、登板3、イニング22、防御率0.82、WHIP0.91、奪三振率6.14、与四球率0.41、QS率100%、HQS率67%
○有原航平(ソフトバンク):RSAA3.87、登板4、イニング30、防御率1.50、WHIP0.83、奪三振率7.80、与四球率1.80 、QS率100%、HQS率100%
○ダーウィンゾン・ヘルナンデス(ソフトバンク):RSAA3.34、登板8、イニング8、防御率2.25、WHIP0.50、奪三振率20.25、与四球率 0.00
○隅田知一郎(西武):RSAA3.16、登板4、イニング30回2/3、防御率3.23、WHIP1.11、奪三振率7.34、与四球率0.88、QS率50%、HQS率50%
○鈴木翔天(楽天):RSAA2.97、登板8、イニング8、防御率0.00、WHIP0.63、奪三振率16.88、与四球率2.25
○アンダーソン・エスピノーザ(オリックス):RSAA2.93、登板3、イニング18、防御率2.50、WHIP1.39、奪三振率10.50、与四球率 3.50、QS率100%
○小島和哉(ロッテ):RSAA2.39、登板4、イニング29回2/3、防御率2.12、WHIP1.08、奪三振率8.19、与四球率2.12、QS率100%、HQS率75%
5月に公式の月間MVPを受賞した武内が7月も好成績を残した。勝ち星こそ2勝止まりだが、QSは3度、平均投球回数が7.17とイニングイーターぶりも発揮。奪三振率7.22、奪空振り率21%はRSAA上位の投手に比べれば少ないものの、ゴロ率47%、ポップフライ率10%としっかりと打者を打ち取っていることがわかる。
月間与四球数は2で、1だった加藤に匹敵するコントロールの良さも披露した。チームが上昇気流に乗れない中、孤軍奮闘した23歳のドラフト1位左腕・武内をセイバー指標で選ぶ7月の月間MVPに推薦する。
復調した楽天・浅村…7月のOPSは1.010をマーク
打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAを用いる。wRAAの上位ランキングは以下の通りだった。
○浅村栄斗(楽天):wRAA8.90、83打席、OPS1.010、打率.343、本塁打4
○高部瑛斗(ロッテ):wRAA8.59、82打席、OPS.997、打率.405、本塁打1
○清宮幸太郎(日本ハム):wRAA8.45、55打席、OPS1.135、打率.383、本塁打3
○辰己涼介(楽天):wRAA6.17、89打席、OPS.893、打率.321、本塁打2
○ネフタリ・ソト(ロッテ):wRAA5.84、84打席、OPS.910、打率.308、本塁打6
○森友哉(オリックス):wRAA5.27、81打席、OPS.838、打率.314、本塁打1
○正木智也(ソフトバンク):wRAA4.79、68打席、OPS.822、打率.313、本塁打1
○小郷裕哉(楽天):wRAA4.72、93打席、OPS.786、打率.302、本塁打1
上記のランキングに掲載されていないチームのwRAA上位の選手は以下の通り。
○蛭間拓哉(西武):wRAA2.50、37打席、OPS.822、打率.294、本塁打1
7月の平均得点が4.50と好調だった楽天から、3選手がwRAA上位ランキングに入った。その中でも打線を牽引したのが浅村だった。月間OPSはリーグで唯一人1を超え、4本塁打、6二塁打。長打率.600もリーグ1位だった。
春先は低迷し、下位に甘んじることもあったが、徐々に復調。打線の核となってチームに貢献した浅村を7月の月間MVPパ・リーグ打者部門に推薦する。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。