侍J・井端監督が抱いた“危機感” 進化を続けるMLB「日本とは比べ物にならない」
米国視察で実感「守備の比重が非常に大きくなった」
侍ジャパンの井端弘和監督が7月27日から8月3日まで米国を視察。MLB4試合を観戦し、カブスの鈴木誠也外野手、レッドソックス・吉田正尚外野手、昨年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に日本代表として出場したカージナルスのラーズ・ヌートバー外野手らと対面し、3日に羽田空港へ帰国した。指揮官は想像と全く違ったメジャーリーグの現状に「衝撃を受けた」と明かした。
かつてのMLBは、レギュラーシーズンでNPBの143試合を大幅に上回る162試合をこなし、移動距離も日本に比べて格段に長いことから、試合前の練習は控えめ。場合によってはグラウンド上での練習を全く行わないこともあった。しかし井端監督は「特にナイターの翌日のデーゲームでは、これまでは試合前の練習をほぼやらないイメージでしたが、今はどの球団も、打撃練習はともかく、守備練習には1時間半の練習時間のうち1時間ほどをかけて、みっちりやっています。びっくりしました」と語る。
井端監督がMLB球団関係者に聞いたところによると、各球団が守備に力を入れ始めたのは、昨年から極端な守備シフトが禁止されたことがきっかけだという。内野を5人で守るようなシフトが禁止され、二塁ベースの両側に必ず内野手が2人ずついなくてはならなくなったことから、データに頼ることができず、野手1人1人に絶対的な守備力が求められるようになった。「思い切ったシフトが敷けなくなって、守備の比重が非常に大きくなった印象を受けました」と言う。
さらに井端監督は「走塁に関しても今どの球団でも意識を高めていると聞きました」と付け加えた。「パワーだけでなくディフェンス、走塁に力を入れ始めたとなると、そう簡単に勝てないと改めて思いました」と国際試合を想定して警戒感を強めている。
ノックに受けた衝撃「フルスイングで鬼のような打球を打っていた」
試合前の内野ノック1つを取っても、井端監督の目には「日本は選手が気持ちよくノックを受けていますが、向こうはノッカーがフルスイングで鬼のような速さの打球を打っていました」と映った。「より実戦に近い打球を捕ることを意図しているそうです。そう言えば、観戦した4試合でゴロを捕り損なうようなエラーは1つもありませんでした」と振り返った。
日本はこれまで国際試合で、メジャーリーガーを抱えてパワーに勝る米国や中南米のチームに対し、守備力、機動力、データを活用した戦術などで対抗。WBC5大会中3大会で優勝するなど、互角以上の戦いを重ねてきた。しかし、データ戦術でも「最近のMLB球団には、日本とは比べ物にならないくらいの数のアナリスト(分析員)がいる」と井端監督は語る。
「向こうも、“攻撃で取る1点も、守備で防ぐ1点も、同じ1点”という意識を持ち始めたのかもしれません」と井端監督。日本の得意分野でメジャーリーガーが強みを見せつつあるとすれば、確かに将来へ向けて一大事である。NPBでは今季、例年に比べて“投高打低”の傾向が強いが、国際試合を意識してさらにディフェンス力を高めていくべきかもしれない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)