木製バットの“茨の道”も「1年早いだけ」 甲子園で躍動…プロ注目スラッガーが継ぐスターの系譜

鳴門渦潮戦で二塁打を放つ早実・宇野真仁朗【写真:加治屋友輝】
鳴門渦潮戦で二塁打を放つ早実・宇野真仁朗【写真:加治屋友輝】

初戦で満塁から走者一掃の3点二塁打など5打数3安打3打点の活躍

 スター候補が飛び出した。第106回全国高校野球選手権大会は11日、甲子園球場で第5日が行われ、9年ぶり30回目の出場の早実(西東京)が8-4で鳴門渦潮(徳島)を下し初戦を突破した。高校通算63本塁打を誇りプロも注目する主将、宇野真仁朗内野手(3年)が「2番・遊撃」で出場し、2回の満塁の好機で走者一掃の逆転3点二塁打を放つなど、5打数3安打3打点と活躍した。

 木製バットの乾いた快音が、甲子園に響き渡った。0-2とリードされて迎えた2回2死満塁。宇野は相手の先発・岡田力樹投手(3年)が繰り出すフォーク、スライダーをファウルにして粘り、カウント3-2での10球目に、真ん中付近へ来たスライダーをついにとらえた。打球は左翼フェンスを直撃。3人の走者が次々とホームベースを駆け抜け、起死回生の逆転3点二塁打となった。

 使用しているバットは、今春から採用されている低反発の新基準に移行した金属バットではなく、ドジャースの大谷翔平投手も使っている米メーカー「チャンドラー」製の木製バットである。「木材はバーチで、日本の木製バットに比べると固い感じ。芯に当たった時には、これまでの金属バットと同じくらい飛ぶ感触があります」と宇野は説明する。実は父・誠一さんがチャンドラーの輸入総代理店の社長を務めている。

 昨年の秋季東京都大会終了後、練習試合で新基準の金属バットを試してみたが、「いい感じのレフトへの打球がフェンスをオーバーせず、直撃してしまった」。違和感を拭えなかったという。「冬の練習で木製バットを使ったのは、もともとはスイングの強化が目的でしたが、自分としては振りやすいと感じましたし、試しに春の大会で使ってみたら結果が出たので、そのままずっと木製で通しています」と振り返る。

ランナーとして抜群の判断力、走力、遊撃手としての守備力

 そうは言っても、一般的に木製バットを使いこなすのは金属より難しい。宇野も「金属なら内角の球に詰まらされても、思い切り振れば結構飛びました。木製ではそうはいきません」と認め、「内角の打ち方をいろいろ考えながらやっています。金属の時は引っ張る意識が強かったのですが、それだと芯に当たる確率が低いと感じたので、逆方向(ライト方向)を意識するようになりました」と語る。

「打撃は好きです。正解がなく、難しいところが楽しいです」と言い切る宇野にとって、木製バットを使いこなすための試行錯誤は、決して苦痛ではないようなのだ。「来年、大学野球をやるにしろ、プロに行くにしろ、上のステージでやるには、いずれ木製を使わなくてならない。1年早いだけかなと思います」と事もなげに言った。プロのスカウトにしてみれば、金属から木製への変化に戸惑う心配がない分、評価がしやすいとも言えそうだ。

 宇野の魅力は、打撃だけではない。初回には三遊間を破る打球を放ち、相手の左翼手がやや慎重に待って捕る姿勢を見せると、迷わず一塁を蹴り、抜群の判断力と走力で二塁打にした。

 8回2死走者なしでの打席も、左前打を放ち、レフトがファンブルしたのを見逃さず二塁へ(記録はシングルヒットと敵失)。さらに次打者が二塁内野安打を放つと、相手の二塁手の一塁送球がややそれたのに付け入り、二塁から一気に本塁に生還した。遊撃守備でも、目の前でのイレギュラーバウンドに難なく対応して見せた。

 精悍なムードを兼ね備えるイケメンでもある。早実は言うまでもなく、日米を通じてプロ野球最多の通算868本塁打を誇る王貞治氏をはじめ、日本列島に“大ちゃんフィーバー”を巻き起こした荒木大輔氏、“ハンカチ王子”の異名を取った斎藤佑樹氏、現日本ハムの清宮幸太郎内野手ら、数々のスターを輩出してきた。宇野にはその系譜を継ぐ予感が漂っている。

 試合後、テレビカメラの前で大先輩の斎藤佑樹氏のインタビューを受け、緊張の面持ちだった宇野。まずは今大会で数少ない“木製バットマイスター”としての評価を確立し、一気にスターダムに駆け上がる姿を見たい。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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