仲間は「なぜだ!」 サイクル安打を自ら消した“頑固者”…23歳が今も使う「特別な場所」【マイ・メジャー・ノート】
オリオールズのガナー・ヘンダーソン【写真:Getty Images】23歳の若武者が熾烈なポストシーズン争いを牽引している
23歳の若武者が熾烈なポストシーズン争いを牽引している。
今季、もっとも白熱した首位争いが繰り広げられているアメリカン・リーグ東地区。レギュラーシーズンが佳境を迎え、ヤンキースとオリオールズが序盤から展開する抜きつ抜かれつのデッドヒートが日々その熱量を増している。
ハイペースで本塁打を量産しているヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手が耳目を集める中、首位返り咲きを狙うオリオールズを巧打と堅守で牽引しているのが、7月29日に23歳の誕生日を迎えたガナー・ヘンダーソン遊撃手だ。
7歳の時に両親が造った練習場で兄弟と切磋琢磨「今も特別な場所」
住んでいた地域にはまともな練習場所がなかった。それなりのフィールドを使うには日時を書き込む申請を要し、常に順番待ちという状況だった。心なしかヘンダーソンの口調が感傷の色合いを帯びた。「週に1回ほどしか使えなかった」。そして口調は一気に変わった。
「僕が7歳になると、両親が牧場だった6エーカー(約2万4282平方メートル)の土地を購入し、そこにリトルリーグサイズのフィールドを造ってくれたんですよ! 学校に行っても頭にあるのはもう野球だけ。帰宅すると2人の兄弟に父も加わり4人で練習開始。バックヤードに出るドアは僕たちの“フィールド・オブ・ドリームス”の入り口になりました。そのうちにどんどん仲間が集まってきて、いつも試合ができるだけの人数はそろっていました」
ともに汗を流した弟のケードは同じモーガン・アカデミー高校の野球部で活躍。兄のジャクソンはアラバマの名門公立大オーバーン大学野球部でプレー。メジャーで名を馳せたフランク・トーマス、ボー・ジャクソンは同大の出身である。
約3.5億円を投じて実家の横にトレーニング場を設営…現在も使用する
実は、ヘンダーソンはプロ入り後も「特別な場所」を使い続けている。2019年のドラフト2位でオリオールズから指名されると、契約金230万ドル(約3億5000万円)を投じて、実家の横に最新機器を備えたトレーニング場を作った。シーズンが終わると12月から2月までの3か月を実家で過ごす。
「新型の打撃練習用マシーンがあって毎日たっぷりと打ち込みをします。小さな町なので僕が卒業した高校の選手たちにすぐ話が広がって。なので、トレーニング場とバックヤードのフィールドを後輩たちに開放しています。あそこは水はけが学校よりもいいんですよ(笑)」
7月16日(日本時間17日)にテキサス州アーリントンで開催された球宴に初選出されたヘンダーソンは、それまでにジャッジ、ドジャース・大谷翔平投手に次ぐメジャー3位の27本塁打を放ちホームランダービーにも出場。球宴明けには4安打を放ち後半戦に好スタートを切った。疲れがピークになる8月も安定している。
単打でサイクル達成の打席で右翼線安打…躊躇なく二塁へ進んだ
昨年8月20日(同21日)の敵地・アスレチックス戦で、ヘンダーソンは4打席目までに二塁打、三塁打、本塁打を放ちサイクル安打達成まであと単打のみとして10点リードの8回に第5打席を迎えた。得点圏に走者を置いた場面で、鋭いゴロで右翼線を破った。大差から意図的に単打にすることも許される状況であったが、躊躇することなく二塁へ向かう姿にダグアウトからは仲間たちが「なぜだ!」の声を上げた。
あの時の心境が聞きたくなる。ヘンダーソンは淡々と語った。
「明らかに単打の当たりであれば僕は一塁で止まっています。でもあれはまごうことなき二塁打ですよ。正しい判断で思い切りプレーをしたのがあの結果になったということですね」
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)