吉田輝星、新天地で消えた“迷い” 駆け引き重視で右往左往…日本ハムでは「二重に勝負」

オリックス・吉田輝星【写真:荒川祐史】
オリックス・吉田輝星【写真:荒川祐史】

オリックス・吉田輝星がマウンドで考える「こういう意図があったはず」

 オリックスの吉田輝星投手が、新天地で進化を遂げている。今季から本格的に投げるようになったチェンジアップ、シュートが加わり投球の幅が広がったことが躍進の秘密。さらにマウンドでの「思考の変化」も好投を引き出している。
 
「最近は、キャッチャーが出したサインに首を振らなくなりましたね」。今季45試合目の登板で、13ホールドを挙げた9月4日の西武戦(ほっともっと神戸)で、吉田が意外な言葉を口にした。
 
 投手と捕手の「共同作業」で成り立つ、バッテリーの関係。それでも自信のある球で勝負したい投手と、データやその日の打者の反応を見て投球を組み立てる捕手の間で、噛み合わないタイミングもある。
 
「今年から球種が増えて『このボールだ』と思って首を振っていたのですが、この場面でこのサインが出されたからには『こういう意図があったはず』と考えるようになりました」
 
 きっかけとなったのは、5月25日に1軍選手登録を抹消となってからだという。「カウント0-2で右打者にスライダーのサインが出たとします。僕のスライダーはチェンジアップやフォークほど信用できる球種ではないのですが、その後のチェンジアップを生かすためなのか、シュートを投げさせたいためなのかと考えた方が(捕手の意図が)はっきりして、自分の中でも割り切って投げられるようになったんです」。そうした思考にたどり着いたのは、体重移動を含めて投球フォームが固まり、個々の球種もレベルアップしたからだ。
 
「元々、打者の反応を見てテンポを変えたりするのが結構好きだったんです。でも、オリックスにきた時には、まだそのレベルに達していなかった。それなのにそんなことをしていたら、逆にもっと難しくしている気がするなと思って。今まで野球をずっとやってきているんでセオリーは分かるんですが、その逆をいくのもいい配球だと思うし、セオリー通りもいい配球だと思います。それを自分の中で迷いながら投げていたら、なんか二重に勝負しているような気がして」

厚澤投手コーチ「彼は自信にあふれてマウンドに立ち、スポットライトを浴びています」

 捕手の意図に従うことでマウンドでの迷いが消え、ボールに魂を込めることだけに集中できるようになった。6月4日の再昇格後は、16試合連続無失点など、安定した投球を見せ続けている。登録抹消前に最大6.97あった防御率は、再登録後の28試合で1.44と奮闘し、3.13にまで引き下げた。
 
 吉田の成長について厚澤和幸投手コーチは「今日(9月4日の西武戦)のように2死二、三塁で出しているというのが、評価です。今日は5球で相手チームを遮断したり、流れをこちらに持ってきたりする。先発には先発の魅力もあるのですが、今、彼は自信にあふれてマウンドに立ち、スポットライトを浴びていますので、このポジションをつかんでほしいですね」と高く評価する。

 吉田は目線を上げる。「前半戦で(自責点4の)“爆弾”みたいなピッチングもあったんですが、抹消された後は数字をすごく気にしています。抑えられるようになった、次は三振を取っていこうとか考えられるようになりました。あとは体の状態をずっとよく保って、ストレートの球速と球威がほしいですね。そうしたら、もっと変化球が効いてくると思いますし、ストレートだけでも勝負できるようになるんじゃないかと思っています」。野球少年のように目を輝かせて、今日もマウンドに向かう。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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