大卒ドラ1でも“我慢”「計画的に…」 阪神4番の覚醒呼んだ強化プロジェクト

阪神・大山悠輔(左)と2軍打撃コーチを務めた濱中治氏【写真提供:産経新聞社】
阪神・大山悠輔(左)と2軍打撃コーチを務めた濱中治氏【写真提供:産経新聞社】

濱中治氏は2015年~2019年に阪神打撃コーチ…当時GMの中村勝広氏から招聘された

 元阪神の4番・濱中治氏(野球評論家、関西独立リーグ・和歌山ウェイブスGM)は2015年シーズン、阪神2軍打撃コーチに就任した。2011年にヤクルトで現役生活を終えて以来の現場復帰。タテジマのユニホーム姿は2007年以来だった。1軍コーチも含め2019年まで務め「いろいろ勉強になりました」。2017年にはドラフト1位ルーキー・大山悠輔内野手の育成プロジェクトにも尽力した。

 濱中氏は和田豊監督の4年目シーズンに2軍打撃コーチとして再び、阪神の一員となった。「(阪神GMの)中村(勝広)さんから電話がかかってきました。うれしかったですし、ありがたかったですね。まさかコーチとして、こんなに早くユニホームを着れるなんて思っていなかったのでね」。中村GMとは2007年オフに濱中氏が阪神からオリックスに移籍した時も縁があった。

「トレードの時は(当時オリックス球団本部長の)中村さんが僕を欲しがってくれたそうです。僕が阪神にコーチで戻れたのも中村さんが呼んでくれたからですし、本当にお世話になりました。(2015年9月に)亡くなられたのは残念だったし、ショックでしたけど……」。そんな恩人との縁も大切にするべく、阪神コーチとして全力を尽くした。金本知憲監督時代の2016年は1軍、2017年と2018年は2軍、矢野燿大監督体制の2019年は1軍で打撃コーチを務めた。

「僕自身、勉強になりました。現役の頃は自分のことだけやっていればいいけど、コーチはそれでは駄目。いろんな選手の、いろんないいところを伸ばしてあげないといけないし、考えることが多かったし、難しさを感じました。選手の方が楽だったんだなって思いましたね」。下半身にパワーを溜めて軸足で踏ん張って打つ“うねり打法”の伝授にしても「合う人と合わない人がいるので、その辺も見極めないといけなかった」と話す。

「骨格も違えば、筋肉の付き方も違う。筋肉の硬さも柔らかさも違うので、その選手に合ったスイングを考えてあげないといけない。僕にはあの打ち方が合っていましたけど、できない人に“やれよ”っていったら駄目ですからね。大山にも伝えましたけど、彼はたぶんできないです。体の作り上、どちらかといえば軸足で回転しながら打つタイプなんでね。合う選手もいましたけど、うーん、その辺も難しかったですね」

思い出される“大山プロジェクト”…「土台作りがあったから、今の成績はあると思う」

 今や虎の主砲に成長した大山に関しては、2017年の“大山プロジェクト”が思い出されるという。その年は大山のプロ1年目シーズン。「(当時監督の)金本さんが、入ったばかりの大山はまだ体が小さかったので、まず2軍で筋力、体力をつけさせないといけないと言って、オープン戦の途中から始まりましたね。2軍では3試合のうち、2試合は出て、1試合は出ずにトレーニングの日にする。それは絶対でした。計画的に大山の体を強くしていこうということでね」。

 それはすべてにおいて徹底されていた。「食トレもありました。体を大きくするには食事も大事ですからね。練習ではロングティーとかよくやりましたねぇ」。とはいえ、当時から大山の力は誰よりも抜けていたという。「あの時、僕もよくバッティングピッチャーで大山に投げましたけど、インサイドのボールとか、ほぼミスショットしないんですよね。7~8割は芯でとらえるし、これはいいバッターが入ってきたなってやっぱり思いましたね」。

 ルーキーイヤーの大山は6月18日に1軍昇格し、交流戦明けの6月23日の広島戦(マツダ)に代打でデビューした。「金本さんもホンマはドラ1だしもっと早くから使いたかったでしょうけど、大山のポテンシャルは体を大きくしてから始まるからって、それまで1軍に上げなかったんですよ」と濱中氏は振り返った。「あの土台作りがあったからこそ、今の大山の成績はあると思いますよ」とも話した。

 濱中氏は若手時代に阪神・野村監督から配球を学び、打力向上につなげたが、大山にはそれも伝えたという。「2019年に僕が1軍コーチだった時、大山に配球の話をしました。それまで彼は来た球を打ちますみたいな感じだったんですが、4番を打っていたら、そんな甘い攻めはしてこないんで、一緒に勉強したんです。それが今は配球を読んでバッティングできるようになっていますからね。成長している姿を見るのはやっぱりうれしいですよね」と目を細めた。

“大山プロジェクト”に取り組んだ日々も含めて阪神でのコーチ経験は濱中氏にとって大きな財産になった。現在は阪神球団からは離れた立場。「大山と個人的に話をすることはないですけど、そりゃあ気にはなりますよ」と言い、さらなる進化も楽しみにしている。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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