中日の選手は「ベンチと戦っているみたい」 3年連続最下位…立浪政権の“功罪”

今季まで中日の指揮をとった立浪和義監督【写真:矢口亨】
今季まで中日の指揮をとった立浪和義監督【写真:矢口亨】

立浪監督の同僚だった元MVPの中尾孝義氏が分析

 中日は立浪和義監督が成績不振の責任を取って退き、井上一樹2軍監督が1軍の指揮官に昇格した。現役時代に強肩好打の捕手として3球団で活躍した野球評論家の中尾孝義氏は、プロ2年目に中日でリーグMVPに輝いている。球団OBから見た今シーズンのドラゴンズ、そして新体制への期待を聞いた。

 中日は滑り出しの4月9日に約8年ぶりに単独首位に浮上した。今年は違う―。ファンは沸き立ったものの、翻ってみれば、つかの間の夢だった。現役時代に「ミスタードラゴンズ」と称された立浪監督は、就任期間3年連続で最下位の悪夢を見た。

 リーグ最少得点などの具体的な数字が示す敗因が挙げられる。しかし、中尾氏はテレビ観戦していて選手の表情の方が気掛かりだったという。

「相手と試合をやる前にベンチと戦っているみたいでした。もちろん、みんな必死に臨みますよ。でも、ある程度ゲームの中で楽しむくらいの余裕がないと、なかなか結果って出ないんです。“遊び心”と言ったら、おかしいんだけどね。試合になった時にそういう余裕が全くないように感じました」

 立浪監督の現役ルーキーイヤーは1988年。翌年に巨人に移籍する中尾氏も一緒に中日でプレーした。「闘将」「燃える男」と呼ばれた星野仙一監督が率いてリーグ優勝を果たしたシーズンだ。「立浪は星野監督の時に入団しています。厳しい時代です。ちょっと、そういうものを追い求め続けた感はあるかもしれませんね」。

 中尾氏が中日でプロ入りして以降は近藤貞雄氏、山内一弘氏が指揮官。「近藤さんは放任主義でした」。それぞれのカラーを体感した。迎えた3人目の星野氏は「練習からプレッシャーがかかる」と雰囲気が激変した。「それに耐えないと試合に出られない。その中で結果を出さないといけない。僕もベンチと戦っている部分もありました」と回想する。

新監督はドラフトで「いい仕事」…中尾氏自身も経験「優勝? はまればわからない」

 中尾氏は立浪監督をねぎらい、慮る。「監督としての方針ですから、それはそれでいい。悪いわけではない。実際に星野さんの時、僕らは優勝しましたから。でも、その頃と今はやっぱり違う。今の選手には合ってなかったのかなぁ」。星野氏は“3冠王”落合博満内野手をロッテからトレードで獲得し、監督1年目の1987年は2位。「落合さんがいて、チームに安定感が出てきていました」。球団が補強策をバックアップしていた。

 立浪監督は“置き土産”として投打の軸を確立し、井上新監督にバトンタッチした。高卒4年目の高橋宏斗投手は防御率1.38でタイトルを獲得。立浪監督が就任した2022年から1軍に抜てきされ、ステップアップした。26歳の細川成也外野手は現役ドラフトで昨年から加入し、2年連続20本塁打以上を放った。中尾氏も「高橋は後ろ(テークバック)が小さくて速い。肘が回って前で叩ける。あのフォームなら打者はタイミングが合わない」と絶賛する。

 井上新監督はドラフト会議の1位指名で、4球団が競合した金丸夢斗投手(関大)のくじを引き当てて渾身のガッツポーズを披露した。2位も吉田聖弥投手(西濃運輸)を指名。即戦力左腕2人の交渉権を得た。サウスポーの小笠原慎之介投手がポスティングによるメジャー挑戦を球団から容認されており、意義は大きい。「いい仕事をしましたね。1位を競って獲れば、その年のドラフトは成功。1位が当たれば、後はポンポンと狙い通りの選手が指名できる。外れると後手後手に回っちゃうんですよ」。

 ドラフトで好スタートを切ったとはいえ、来季は優勝より、まずは再建の年が現実的か。「それは、わからないですよ。ピッチャー陣はある程度計算できるので、野手陣がはまってくれたら。個々がレベルの高いプロだから、はまっちゃう時があるんです」。中尾氏は入団1年目は5位。翌1982年は一気に優勝し、MVPに輝いた。「僕の時がそうでした。最下位でも関係ないです。そのシーズンが終ったら、それで終わり。また一から新しいシーズンが始まるわけですから」。後輩たちの逆襲を楽しみにしている。

(西村大輔 / Taisuke Nishimura)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY