中日指揮官とマウンドで口論　敵軍も驚き…“札幌の夜”発端で始まった外出禁止令

宇野勝氏は1982年の優勝に貢献…近藤貞雄監督とは試合中に喧嘩したことも

　1981年から1983年までの3シーズン、中日は近藤貞雄監督体制だった。元中日のスラッガー・宇野勝氏（野球評論家）はプロ5年目から7年目の時期で、その間に主力打者としてめきめき頭角を現した。打力向上とともに1981年は巨人戦での“ヘディング守備“でも有名になり、1982年は歓喜の優勝も経験した。近藤監督との思い出もいっぱいある。「試合中のグラウンドで喧嘩したこともあったなぁ」と苦笑しながら話した。

　1982年10月18日の大洋戦（横浜）で、中日は8年ぶりのリーグ優勝を決めた。シーズン最終戦のその試合に負ければ巨人優勝となるところで、8-0で勝利した。大洋・長崎啓二外野手と首位打者を争った中日・田尾安志外野手が5打席連続四球と勝負を避けられたことでも話題になったが、とにかくギリギリの戦いを制してのVだった。「あの時は、近藤監督が『みんなビールでも飲みながらやろう』とか言ったんだよね」と宇野氏は懐かしそうに振り返った。

　緊張感たっぷりのピリピリムードを少しでもほぐすための近藤監督流の“配慮”だった。「ようするに気楽にやれってことだよね。ホントにビールが置いてあったからね。俺は飲んでいないけどね。ゲームに最初から出ていない人が飲んでいたような気がする。最初から試合に出ていた人はたぶん、飲んでなかったと思うよ」。その年の宇野氏は30本塁打を放って優勝に貢献した。近藤監督を胴上げしたのは忘れられない一コマだ。

　同時に印象に残っているのが近藤監督と“やり合った”ことだという。「何年だったかは忘れたけど、ヤクルト戦で仙台だったと思う。俺がエラーというか、ミスっぽいことをして、マウンドに集まって、近藤監督から『何やっているんだ！』って言われて『ちゃんとやっていますよ！』って言い返しちゃったんだよ」。2人が言い合っているのは、周りが見ていてもわかるくらいの状況だったという。

外出禁止令が出されても…「そんなの知らねえよって出かけていた」

「結局、その試合にも勝ったんだよ。それで、ヤクルトの武上（四郎）監督に『こんなマウンドで監督と選手が喧嘩しているようなチームに負けて……』みたいなことを言われた覚えがある。向こうのベンチでもわかっていたということだよね」と宇野氏は話した。思わず熱くなってしまったが、それで指揮官との関係がギクシャクすることはなかったという。「まぁ、近藤さんもね、さっぱりしているしさぁ。その時はそれで終わり。収まったよ」。

　近藤監督から外出禁止令を出されたこともあったという。「俺だけじゃなくて、全員に対してだけどね」と話すが、その“原因”に宇野氏は絡んでいた。「札幌でね、次の日がデーゲームだったんだけど、夜中に田尾さんと腹減ったなって話になって、ラーメン横丁に行ったんだよ。そこで新聞記者と一緒になったんだけど、そのことを書かれてさぁ、選手の名前は出てないんだけど、試合に負けて近藤さんが“みんな外出禁止だ”ってなって……」。

　もっとも、その“近藤指令”を守る選手はいなかったそうだ。「門限なんてあってないような時代だったし、外出禁止って言われながら、みんな『そんなの知らねぇよ』って出かけていたよ。（当時現役の）星野（仙一）さんなんか率先して破っていたね。それとは別だけど、東京とかでは夜の12時まで麻雀をやってから出掛けていたもんね。門限を守るどころか、門限が過ぎてからね。星野さんは酒を飲まないんだけどさ」。

　その頃の中日は個性豊かな選手の集まりで、「野武士軍団」とも呼ばれていた。宇野氏は、その環境下で鍛えられた1人であり、近藤監督時代に25本（1981年）、30本（1982年）、27本（1983年）と長距離砲として急成長を遂げた。グラウンドで喧嘩したのも、今では笑って話せる。振り返ればうまく使ってもらった。長所を伸ばしてもらった。そういう意味でも宇野氏は近藤監督に感謝している。

（山口真司 / Shinji Yamaguchi）