「日本では絶対にあり得ない」 川上憲伸も感心…元コーチの“もう一つの顔”【マイ・メジャー・ノート】
自身の小説を手にする故ボビー・デューズ氏【写真:木崎英夫】元ブレーブスコーチのボビー・デューズ氏は文筆家でもあった
選手の契約更改や引退が報じられる季節になった。来季からの新体制に向けてコーチ陣の交代劇も生まれるこの時期に、脳裏に浮かんでくる言葉がある。
「朝起きて、きょうもまたこれがやりたいと思えることを仕事にすべき。この上ない幸せなこと」
言葉の主は、アトランタ・ブレーブスのボビー・デューズコーチだ。球界から引退間際の老練のコーチが新たな目標に向かって歩み出す意思が籠っている。
オフは読書と執筆に没頭…物書きの道程は野球と重なるという
1960年にジョージア工科大からドラフト指名を受け、カージナルスに入団。メジャーでプレーする夢は叶わなかったが、マイナーの監督、メジャーのコーチ業で手腕を発揮。その中で芽生えたのが文筆家になることだった。幼少時代に暮らした祖父チャールズは弁護士にして詩人。マイナーリーガーだった父ロバートもかつて作家志望だったことから、デューズ氏は野球に劣らず書くことに強い興味を抱いていたという。
オフは読書と執筆に没頭する日々。デューズ氏はインプットとアウトプットで研鑽を重ね、晩年になると、ジョージア州カスバートの2年制大学、アンドリュー・カレッジで創作ライティングの教鞭をとった。信条の「(映画を)たくさん見てたくさん読み、豊かな感性を涵養して独自の発想力を養いペンを走らせなさい」を学生に説き、「Don’t imitate but do emulate(模倣せず模範とする)」の寸鉄式の警句に集約している。
「作家志望だった祖父チャールズの口癖は『読まなければ書けない』でした。物書きは誰もがこうして上を目指していくものですが、野球と重なりますよ。コーチの教えを自分で発展させて上手くなっていくことが大切です。だから私はきのうの、そしてきょうの自分を超えていけという意味で“Go beyond”をモットーにしています」
2015年クリスマス翌日に76歳で死去
そういえば、今年の夏、フィラデルフィア・インクワイアラー紙にこんな記事が載った。
“メジャー通算225セーブを挙げ、2008年のワールドシリーズで胴上げ投手となった元クローザーのブラッド・リッジが47歳で考古学の博士号取得に挑戦している。2013年に引退すると考古学と宗教研究に興味が湧き、レジス大学のオンラインコースを受講。古代ローマ考古学の修士号を取った後、現在は考古学研究とその調査でイタリアのムルロという村に滞在し、博士号取得を目指す日々を過ごしている”
リッジが記事に寄せたコメントは、ビシッと決まる直球のように冴えている――「野球のフィールドでの成果以外に、何か達成感を得たいと思っているんです」。吸引力のある言葉に引き込まれた。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)